リレーコラムについて

振動安全性試験

高松聡

宇宙飛行士になりたいと思ったことありませんか。
僕は学生のとき結構真剣にこの夢を追いかけてました。大学4年のとき宇宙飛行士の選考が日本で始めて行われたんです。願書を取り寄せると、裸眼視力1.0以上が前提条件です。僕は0.1くらいしかありません。この瞬間僕の子供の頃からの夢はあっさりと砕け散りました。(毛利さんが選ばれたときです)
それにしても広告会社っていうのはずいぶん道がそれてしまった感じがするけど、入社16年目にしてついに仕事と宇宙がつながったんです。宇宙開発事業団とか、ロシア宇宙庁とか、そして夢にまで見たNASAと仕事で向き合えるんです。彼らと技術調整や契約交渉したり、宇宙飛行士を訓練したりするんです。むちゃくちゃ嬉しいけどコピーライター高松聡とかいう名刺渡して宇宙ステーションの姿勢制御の話もないでしょ。映画のアルマゲドンやアポロ13に出てくる管制センターで宇宙飛行士に指図しているあの人、そうインカムとかしてベスト来ているあの人、あれと同じ肩書きにしてしまうのがいいんじゃないかと思ったんです。ミッションディレクターっていうんですよ、彼らは。なんか電通の名刺にミッションディレクターってカタカナで入っているとすごく胡散臭いけど、英語にするといい感じではないかと勝手に決めつけました。後々、人に紹介されるとき恥ずかしい思いもしたけど、ミッションと呼べるような仕事ってそうないじゃないですか。人の命に関わる仕事もたぶん最初で最後です。CMを作ること、いいコピーを書くことが本来の目的だったんですけど、人命優先のミッションをいかに成功させるかが仕事の95%くらいになってしまったんですね。
とはいえ最初のハードルは僕の企画に乗ってくれるクライアント探しです。そもそも僕はCMプランナーでもコピーライターでもない。しかも宇宙でCMを撮りましょうよ、という荒唐無稽な話です。しかも一月でクライアント決めないと年内に撮影はできない。僕はどうしても年内に実施したかったんです。だって2001年だったんです、この年は。2001年といったら宇宙の旅じゃないですか。
あるCDに相談したら、大塚製薬さんにプレゼンさせてくれることになりました。そこからは驚くほど早く話が進み出します。なんとプレゼンをした3時間後に部長、役員、社長、会長のOKが出てしまったのです。僕はホントは他のクライアントを担当している営業なんです。そのことを隠して、名刺も切らした振りをして初対面でプレゼンしたんです。そんな僕の荒唐無稽な話を信用してくれた。これでがんばらなければ、何をがんばるんだって思いましたよ。
ここからは、宇宙にポカリスエットを持っていくための、そして宇宙飛行士に撮影をしてもらうための試験・検証・実験・シュミレーションと慣れない作業の連続です。時として事業団と喧嘩をしながらあっというまに5ヶ月くらいが過ぎてしまいます。
いつになったらコピーとか考えられるんだろう、でもとにかく金曜までにポカリ缶の振動安全性試験やらなきゃ、そんな感じの毎日でした。

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