リレーコラムについて

芦ノ湖は、遠い。

小野寺龍雄

水面から霧が立ち上っている。
まだ辺りは、群青に包まれ、
空は、刻々と表情を変えていく。
ときおり水鳥の羽ばたきが聞こえる。

鏡のような水面に波紋が広がった。
トラウトのライズだろうか?

ロッドとタックルボックスをボートに積み込む。
エンジンの音だけが、湖面に響きわたる。
桟橋から、もう僕の姿は霧に包まれて見えないだろう。

芦ノ湖は、毎年11月末から翌年の2月末まで禁漁になる。
この3ヶ月の間、僕は、フライを巻いたり、
新しいルアーを作って過ごす。

湖での釣りと言えば、バス・フィッシャーマンですか?
と聞かれることもあるけれど、
僕の場合節操がない。
ルアーでトラウトやバスも釣るし、
フライで湖や川でトラウトを狙うこともある。
時には、海へ行くことも。

ある意味でストイックなフィッシャーマンには、
噛み付かれるかもしれない。

成蹊にボートを向ける。
アンカーを降ろし。フライロッドを手にする。
キャスティング。
弧を描いていたラインは、
一本の線になり狙ったポイントへフライを運ぶ。
ラインを巻取りながら指先にすべての神経を集中する。
一日に何十回、何百回とキャストをくり返す。
そのたびに指先は、目や耳になる。

そして一匹も釣れないこともある。

精神科医でフィッシャーマンの
ポール・クイネットの著書に「パブロフの鱒」がある。
彼は、その本の中で魚釣りは、「希望」だと書いた。

魚釣りは、ひとりで行くのがいい。
誰かと競うものでもない。

ひとりで湖にボートを浮かべ、冷静に、そして熱くなる。

きょうは、芦ノ湖の解禁日だ。
僕は、コンクリートの塊の中で、
プレゼンテーションをしていた。

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