リレーコラムについて

ラブソングからは逃げられない

魚返洋平

ラブソングからは逃げられない。

作詞をやっていると、
ベタだろうが照れくさかろうが食傷気味だろうが、
ラブソングと徹底的に向き合わざるを得なくなる。

ラブ以外に、まだまだ歌詞化(可視化)されるべき
ものがあるはずだ!
という思いでそもそも僕は作詞活動をはじめたのだが、
そうはいっても、コンペなんかの実際のオーダーでは、
ラブソングを求められることが圧倒的に多いのです。

そんなときは、数々の偉大な(あるいは自分の好きな)
ラブソングを聴き直して、
自分の気持ちを盛り上げることにしている。

「いちょう並木のセレナーデ」は、
そういう名曲のひとつだ。
原由子の曲にもあるけど、
ここで取り上げるのは小沢健二のほうです
(敬称略。小沢氏自身、「ファンとしては呼び捨てが気分が出る」
「ご心配なく」と書いていたことですし)。
アルバム『LIFE』収録曲。

いまは Apple Music とかで聴けます。
歌詞はここで読める。
http://www.utamap.com/showkasi.php?surl=55462

かつてたくさんの時間をともにした相手。
けど離ればなれになった相手、に呼びかけるような歌。

  「きっと彼女は涙をこらえて 僕のことなど思うだろ
   いつかはじめて出会った いちょう並木の下から」

ここでの「僕」って、もう死んじゃってるんじゃないか。
この「彼女」は、僕の喪に服してるんじゃないか。
ということをずっと思っていた。
いちょう並木の「下で」じゃなくて「下から」なのは、
それを「上から」見ている眼差しだから。
いちょうの木よりも高い場所に浮かんで、
地上を見下ろしているからではないか。

もうちょっと正確に言うと、
いまの(生きている)僕が、未来の(死んだ)僕の視線を
借りて歌っている感じがあって、
なんだか4次元的だなあと思う。

サビに出てくる
「アイム レディ・フォー・ザ・ブルー
(“ブルーの用意はできてるの”)」
っていうのは、(いつか訪れる)悲しみへの覚悟、
みたいなものだと解釈している。

十代の頃に『LIFE』を貸してくれた友人Nくんと
いまも時々お酒を飲むのだが、
「『いちょう並木の下』が土の中だったらやばいね」
と彼は言っていた。
僕が地上で、彼女は地中。
うわっ、死者と生者が反転してしまった。
そこまで行くと考えすぎかな、いやアリかもね、などなど、
名曲はずーっと味わい直すことができる。

ところで話は変わるのだけれども、
去年、自分に子ども(娘)ができた。
それで半年ほど会社を休んで育児をやっていた。
(これについては以下に詳しい。
『男コピーライター、育休をとる。』
https://dentsuho.com/booklets/286)            

0歳児という珍獣(リトル・クリーチャー)が
徐々に人間の子どもっぽくなっていく。
深夜3時に起こされてオムツを替えながら
思い出したのが、この「いちょう並木のセレナーデ」だった。

  「もし君がそばに居た 眠れない日々がまた来るのなら?
   弾ける心のブルース 一人ずっと考えてる
   シー・セッド(彼女は言った)
   ア・ア・ア アイム レディー・フォー・ザ・ブルー 
   (“ブルーの用意はできてるの”)」

もっと後になって、俺はそう思うのか。
この娘にも、悲しみに備える日が来るのか。
みたいな感じで、
君とか彼女とかが、“娘”に置き換わっていくんですよ。

こういうのを、なんというか?
ごく一般的には、親バカという。
あるいは子煩悩という。
うわぁ、やばい。
さういふものに、私もなつてしまつた。
勢いで私とか言ってしまった。
私になりそびれたくせに。
(参考:https://www.tcc.gr.jp/relay_column/show/id/4418)

そんなわけで、
やっぱり、と思うのだった。
なんだかんだで人間、いつになっても、
(すぐれた)ラブソングからは逃げられない!

僕もこころざし高く歌詞を書きたいものである。
ご依頼お待ちしております。

***

さて、1週間どうもありがとうございました。
来週のリレー(というより駅伝)コラムは、
室井友希さんにお願いしました。
僕のコピーやCM企画がいま以上に下手だったころ、
切磋琢磨していた仲間(戦友?)です。
どうぞお楽しみに!

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