リレーコラムについて

売れるとは。

岩崎亜矢

『ハンバート ハンバート』というミュージシャンのお仕事をしています。
いちばん最初のお仕事がACのCMだったので、
もうかれこれ8年くらいのお付き合いなのでしょうか。
(ちなみにこちらのCMです
https://www.youtube.com/watch?v=fGj8m2dJVUc)

このお仕事のナレーションと音楽を頼んだことがきっかけで
お付き合いがはじまり、
今ではアルバムクリエイティブや
ミュージックビデオの企画、広告まわりなどを
担当させてもらっています。

ハンバート ハンバート。
「知ってる!ていうか、好きです」という人と
「え、全然知らない」という人と、
かなりくっきり分かれるミュージシャンじゃないかなと思います
(広告業界ではファンが多い気がする。※あくまで私調べ)。

彼らは夫婦でやっているデュオなのですが、
フォークをベースにしたメロディラインだったり、
その歌声や語り口のやさしさから、
「ほっこり系」とか「癒し系」なんて語られることもあるのですが、
どっこい、すんごいパンクなんです。
ロックなんです。

ハンバートについてそういう語り口を聞くたび、
見た目に騙されるんじゃねえぜ、と
脳内でブツブツつぶやいています。

彼らの曲に、「バビロン」という曲があります。
男女のボーカルが入れ替わりながら、
男と女のあれこれについて歌い進められる曲です。
何気ない日常のシーンから、
セックスを思い起こさせるシーンへと移り、
そののち、破壊と再生について語られてゆく。
ミクロからマクロへの視点の変遷が気持ちよくて、
はじめて聞いた時、
「なんだこの曲は…」と一瞬固まりました。
彼らの音楽から受ける感情というものは、
なかなか言葉でうまく表現することができず
もどかしいのですが、
音と言葉の絡み方や二人のボーカルの秀逸さから、
確かに、唯一無二の音楽が生まれているのです。

吃音の主人公を歌にした「ぼくのお日さま」
(MVをサン・アドチームで作っているので興味ある方は是非→
https://www.youtube.com/watch?v=w8Xi-jwR0aI)、
みんなが当たり前に使っているカタカナ用語に意義を申す「国語」、
はじめて恋に落ちた相手は画面の中のAV女優だったという「はつ恋」、
一見ダメダメなお兄ちゃんについて
弟からの目線で語られる「がんばれ兄ちゃん」、
(こちらもMVを作りました。最新シングルです→
https://www.youtube.com/watch?v=w3lYb9cd81s)
練炭自殺を試みた主人公の絶望と希望を歌にした「ひかり」などなど、
ハンバートハンバートから生まれる歌詞は、どれも、
優しさと激しさのバランスが並びないものになっています。
もう、どうにも惹きつけられて仕方がない。
そんな強さを持っています。

で、タイトルに書いた「売れるとは」について。

数年前、ハンバートの事務所の社長である
Yさんと話していた時に、彼が言ったのです。
「今よりもう少し売れたいけど、ものすごく売れたいわけでもないんです」と。
この感じすごくわかるなあと思って、
Yさんの独特の口調で語られる言葉を聞きながら、何度も頷きました。

これ、ハンバートのいちファンとしてもそうなんですが
(自分の好きなミュージシャンにはあまり売れて欲しくないあの願望)、
コピーライターとしての自分もそうなんだよなと。

「売れたい」という感情は、どこか不安を孕んでいる。
売れることによって、今持っている何かを失う怖さがある。
けれど、今よりもそこそこ売れることは、
名前で仕事をする人間にとって不可欠な問題でもある。
カート・コバーンを筆頭に、あそこまで売れなければ、
今頃いいおっさん・おばさんになって幸福に暮らしていたのかな、
というひとってたくさん思い浮かびますよね。
まあ幸福の定義は人それぞれなので、
一口で言えるものではないけれど。

「いい塩梅で、ある程度の人気を保ち続ける」
というのが理想のポジションな気がしますが、
それって一番難しいことでもある。
時代は、常に変わってゆく。
その変化に並走しなければ、飽きられる。
時代をリードしすぎると、過去のひとになる確率が高まる。
時代に追いつけないと、いつまでも鳴かず飛ばず。
時代と自分の感覚との合わさり方というのは、
永遠の課題なのではないだろうかと思うのです。

しかし私から見ると、ハンバートは、
「いい塩梅である程度の人気を保ち続ける」
のプロフェッショナルにも見えます。
特に最近はライブのチケットも取りにくくなっているので、
ファンの方からすると「もう少し広い会場でやって…」とも
思われるのではないでしょうか。

とにかく、私とハンバートの
ここ10年弱位のつながりというのは、
「そこそこ」というキーワードで
続いているような気がしています。

そこそこ。

それは手抜きではなく、ましてややる気のなさでもなく、
目指すべきポジションとして、
とても「ひたむきさ」を持つ結論なのでは、
なんてことを私は思っています。

岩崎亜矢

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