リレーコラムについて

ジョーダン

室屋慶輔

はじめまして。
室屋慶輔(むろやけいすけ)と申します。
「世界を変えない、立派な人になれよ。」
という代表コピーで、今年新人賞をいただきました。

後輩思いの諸橋兄さんからバトンを受け取ったのですが、
完全に事後報告でした。
わかりやすく「ブン」という音がしました。
ストロングスタイル。
本当にどうもありがとうございました。
はやくDに引き抜いてください。

まず自己紹介をできればと思うのですが、
福岡県北九州市の小倉出身でして、
親の仕事の関係で、
幼少期をアメリカで過ごしました。

恩師である谷山さんに
「その顔で帰国子女って…」
と苦笑されてしまうくらい、バター成分ゼロで
フェイスも割と残念で恐縮なのですが、
今日はそんなアメリカ時代のエピソードを、
少しお話できればと思います。

というものの、英語は素人に毛が生えた程度のレベル。
「エセ」です完全に。ええ。
脳科学的には、9歳までにどっぷり浸らないと、
完全に母国語にはならないようで。
渡米時、私はすでに12歳でしたので手遅れでした。
6歳だった妹は、今でもネイティブ。
不条理ここにありって感じですね。

さて、前置きが長くなりましたが
父親の赴任で、福岡からカリフォルニアに
移ることになった室屋少年。
当時、小学6年生。
多くの日系企業の駐在拠点であるロサンゼルスには、
全日制(いわゆる毎日ちゃんと授業がある)の
日本人学校が選べるほどありました。
なんと授業も、語学のクラス以外は
全編日本語でお送りしている
という、肩透かし。

転校初日は、語尾が「っちゃ」になる北九州弁を
“ラムちゃん”とからかわれたりもしたけれど、
日本人コミュニティの結束力も固く、
みんないいヤツばかり。
余談ですが、今でもお互いの結婚式に出るくらいの
仲の良さだったりします。

北米で日本人が一番住んでいるといわれる
トーランスという街に住み、
KINOKUNIYAで発売日から3日も経たずに
空輸されてきた、週刊少年ジャンプが
4ドル50セントで買えてしまう温室。
このぬくぬくとした桃源郷での暮らしで、
完全に油断しきっていた少年。

そんな最中、今度は父親に
ジョージア州アトランタへの転勤の辞令が。
何不自由なく過ごしていた少年の生活は、
一変してしまったのでした。

カリフォルニアは気候のせいもあるのか、
現地の人々は穏やかな気質。
対するジョージアは、アメリカでは南部にあたり、
南下すればするほど、映画8mileかと見紛う
アングラな環境に。
『My Sweet Georgia』なんて
素敵な曲があったそうですが、
いやー全然甘くない。

日本人学校なんて存在せず、
なすがまま現地校にブチ込まれた室屋少年。
この時、中学2年生。
転校初日を迎え、緊張した面持ちで教室に入ります。

ブリジットジョーンズを
電子レンジに2度ほどかけたような、
優しそうな先生からの紹介もそこそこに、
席に座って無難に授業を受け終えた少年。
次の教室へ移動しようとすると
(向こうでは科目ごとに生徒が移動するのが一般的でした)、
隣の席から元気ハツラツぅな声が。

「やあ、はじめまして!」

満面の笑みで話しかけてくる、イカツイ黒人の彼。

「日本でバスケやってたんだって?
 おれはジャラン。仲良くしようぜ!」

と握手を求めてきた。
正直、日本人がいなくて不安だった。
友達できるかなぁ、と。
とんだ杞憂に終わって良かった。

ジャラン。
どこぞの旅行サイトのような
耳馴染みの良い名前だが
イカした男だ。
やれやれだぜ。
バスケは世界の共通言語だな。
ありがとうジョーダン。

とホッとしながら握手しようとすると、
相手は急にサッと手を上に避けて、耳の後ろに。
髪をかきあげる仕草をしながら

「ダホ〜♪」

という陽気なセリフ。

想定していないフェイントに、目が点になる僕。

半笑いで

「冗談だよ〜日本のバスケSAMURAI。
 ほら、今度こそ握手しようぜ」

と手をまた差し出してくるジャラン。

ヘイヘイ、冗談きついぜージャラン!と
めげずに握手しようとすると、
再度ネイマールもびっくりの
相手を舐めた高速握手フェイント。
エンドレスリピート。

ゲラゲラ笑っている周りの生徒たち。

な・ん・だ・よ・こ・こ・は!

オイオイオイ、アメリカンジョークって
レベルじゃねーぞ、と。

そっちのジョーダンは、おれは認めない。

これがこの国のやり方なら、
今後オレのUSAへの愛は

“相当冷める”。

オレは抜いた刀を

“そっと収める”

よ。

って思わず、お前に乗せられて
バスケSAMURAI的な
韻を借りてきて、踏んじまったよ。

そもそも「ダホ〜♪」ってなんだ。
ファーストラブの宇多田ヒカルか。

「誰を…想ってるん…ダホ〜♪」

みたいなノリか。
たしかにあれには、
今回と同じくらいビックリさせられたな。
発声法が異次元すぎるだろう。

「おれ、うまく笑えてるんダホ〜?」

って引きつった顔してるぞ少年が。
かわいそうに。
さながらプリズンブレイクか、と。
囚人ばかりの施設に入れられた
善良な主人公の気持ち、すげーわかる!

と、今日はここまで。
そんな過酷な環境で立ち尽くす中、
このあと一人の麗しきヒロインが現れる…ッ!
果たして室屋少年の運命はいかに…ッ!(つづく。)

…皆さますいません。取り乱しました。
後半、特に。
このような取りとめもない駄文に、
一週間ほどお付き合いいただければ幸いです。
それでは。

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