リレーコラムについて

サハラ砂漠のまんなかで②

大石将平

一度だけ、旅先で外国人と
ケンカをしたことがあります。

それは、モロッコについた日の夜のこと。
前日に買ったLCCの便が、
マラケシュ・メナラ国際空港に到着した頃には、
すっかり日が暮れていました。

ここからどうやって砂漠にいけばいいのか分からない。
一週間後のロンドン行きの便もまだ買っていない。
そんな状況もあって、はやく宿に着きたくて焦っていました。
たぶん、かなり気が立っていたのだと思います。

空港から宿をとっていたフナ広場へ。
そこは、夜中なのに昼間のように明るい広場でした。
色とりどりのフルーツ、強烈な匂いを放つ煮込み料理、
先進国のおさがりのTシャツが並ぶ洋服屋など、
旅心をくすぐるいろんな屋台が並んでいました。

初めてのアフリカと、フナ広場の光に誘われて、
パシャパシャと写真を撮っているうちにすっかり歩き回ってしまい、
気づけば広場から少し外れた場所に迷い込んでいました。
モロッコのフェズという街は、迷宮の旧市街として有名ですが、
このマラケシュもなかなかの迷宮っぷり。
気づけば、屋台の光から離れた街灯のない真っ暗な道。
野犬は歩いてるわ、子どもたちが「マネーマネー」と腕を掴んでくるわで、
ようやく冷静になりました。

時間はすっかり0時を回っていたと思います。
ここで襲われたら、まず助けを求められない。
思い出したかのように焦り出し、急いで宿に向かいました。

途中、男が路上に座っていました。
そこで、足なんか止めなければよかったのに、と、
あの時の自分に言ってやりたいです。

そこいたのは、蛇使い。

男の笛の音に合わせて見事に踊るコブラ。
これぞアフリカだ!砂漠だ!と、無意識に感じて、
気づけば、カメラを向けて写真を撮っていました。

パシャッ!

その瞬間、笛の音がピタリと止みました。
ファインダーから目を外すと、
そこには、すごい形相で睨んでいる蛇使いの男。
こちらに向かって何かを言っています。
こんなひとけのない道で、何かあったら大変だと思い、
とっととその場を離れようとしました。

しかし、その瞬間、彼が立ち上がり、
すごい剣幕で近づいてきました。
手には、先ほどまで舞っていたコブラ。

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」

なにかを言っている。
どうやら金を払えてと言っているようだ。
「ユー!フォト!マネー!」みたいなことを
ひたすら繰り返していたと思います。
右手にはコブラもすごい剣幕でこちらを見ている。
要求額は、モロッコの通貨で一番高い200DH(約2400円)。
写真一枚撮っただけで、そんなに金を取られるなんてバカバカしい。
そう思い、逃げ出そうすると、コブラを持っていない方の手で腕を掴まれた。

男も諦める気はないらしい。
コブラも「いつでもいったるでぇ!」みたいな顔で
こっちを見ている。

でもこちらも金は払うつもりはなかった。徹底抗戦。
いま思えば、なんでそんな危険な橋を渡っていたのか…。
拙い英語で応戦するも通じているのか、通じていないのか、
向こうはますますヒートアップしてきた。
コブラも心なしか臨戦態勢に入っている。

しばらく、その拙い英語の応酬が続いたあと、
以前、旅人に教わった撃退法を思い出しました。

「本当にやばいと思ったら、日本語を使うんだよ。
知らない言語でまくしたてられる方が、よっぽど相手は怖いんだよ。」と。

そして、私は、子どものように、
その蛇使いに向かって日本語でわめき散らした。
とても公共の場では言えないような言葉の数々。
あの場に日本人がいたら、とても日本には帰れないような言葉の数々を。

効果はテキメン。

さっきまであんなに強情だった蛇使いが半額で手を打ってきました。
その機を逃すまいと、100DHを叩きつけ、その場を後にしました。

こうして、見知らぬ土地の路地裏で、
蛇使いとコブラと私の三つ巴の戦いは幕を閉じました。

「結局、1200円払っとるやんけ。」と、
このコラムを書きながら、
当時の自分に言ってやりたくなりました。
まんまとぼったくられていますね笑

蛇に睨まれるのは、意外と怖いものです。

さて、次回は、いよいよ砂漠の街・メルズーガに到着です。

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