リレーコラムについて

ソーシャル手形

大津裕基

ソーシャル手形をご存知ですか。「思い出は返さなくていい」というスローガンを掲げる日本のスタートアップで、友人間のお金の貸し借りを管理するサービスです。

創業メンバーの6人はもともと同じ会社で働く同期で、日頃から食事代などを貸し借りし合っていたそうです。ただ、いつでも返してもらえるという安心感が悪い方向に働き、徴収が滞ることも多々あったとか。そこで、こうしたお金の貸し借りをうやむやにしないために、サービスの開発にとりかかったのです。

ソーシャル手形の仕組みは、お金を貸した(借りた)時にポストをするだけ。「誰が」「誰に」「いくら」「貸した(借りた)」のかを記し、同時に写真もアップします。貸借状況は1つのウォールに集約され、フレンド登録をしているメンバーなら誰でも見ることができます。記録を残すことで徴収漏れも減り、貸し借りが発生した飲み会や旅行などの楽しかった思い出も、どんどんアルバムに蓄積されていきました。

時を同じくして海の向こう側アメリカでも、同様のサービス「venmo」が産声をあげました。若者を中心に急速にユーザーを増やし、「あとでvenmoしておいて」というように一般動詞として使われるまでになります。2012年にインターネット決済最大手のPayPalに買収された後も順調な成長を遂げ、今年の初めにはなんと月10億ドル以上の取引を達成。現在のvenmoの企業価値たるや、想像すらできません。

話を日本に戻しましょう。創業メンバー6人で始まったソーシャル手形、現在のユーザー数は6人。驚異の成長率0%を今年も記録しそうです。申し遅れましたが私も創業メンバーの一人でして、TCC会員の村田氏、尾上氏も創業メンバーです。

ちなみにソーシャル手形は非公開サービスでして、成長率0%も必然の結果なのです。なぜ私たちはこのサービスをローンチしなかったのか。それは友達がいなかったからです。サービスを実装するのに必要なアレコレを誰に頼むこともできず、6人で細々と貸し借りを記録し続けているのです。

毎月10億ドルを動かしているvenmoを横目に、私たちは今日も数百円の齟齬で喧嘩をしています。

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