リレーコラムについて

2004年のこと

松尾卓哉

当時、ワールド・ワイド・エージェンシーは、
日本の拠点を拡大するというアジア戦略があった。
カンヌをはじめ国際広告賞をいくつか受賞したことで、
2003年秋頃から、いくつかのヘッドハンティング会社から連絡がくるようになった。
 
2004年3月、タイで開催されたAdFest(アドフェスト)では、
GOLD、SILVER、BRONZEを受賞したが、派遣されなかった。
代わりに、その翌週に香港で開催されたMEDIA SPIKES(現SPIKES ASIA)に派遣された。
アドフェストには200名の日本人が参加したと話題になっていた。
SPIKESには、日本からの参加は2名だけだった。
   
SPIKESは食事をしながら表彰式が行われるスタイルで、
表彰台に近いところから
各ワールド・ワイド・エージェンシーのテーブルがセッティングされていた。
マッキャン、BBDO、オグルヴィ、JWT、DDB、グレイ、レオバーネットなど、
アジア各国のCD、クリエイターたちが各々のテーブルで歓談し、情報交換をしていた。
 
その7割近くが西欧人で、アジア人は3割くらいだった。
私たち日本からの2名は、表彰台から遠い末席に案内された。
制作者は私たちだけで、
同席していたのは、各国のヘッドハンティング会社や雑誌社などだった。
 
アドフェストとは全く違う光景が広がっていた。
  
表彰式で、日本から唯一の受賞となったUFJつばさ証券のCMが
会場のスクリーンに映されると、爆笑と大きな拍手が起きた。
そして、名前が呼ばれ、私が壇上に向かっている時、
その拍手が割れんばかりに大きくなった。
しかし、その響きは、前年にカンヌで体験したものとはまったく異っていた。
 
「よく、この賞を獲れたね!」
「日本人なのに、よく、面白いCMを作れたね!」
  
そんな同情が込められた(それをハッキリ感じられた)拍手だった。
 
この年、アテネ五輪の男子マラソン。
35km過ぎまでトップで走っていた選手に沿道から乱入者が飛びつき、
コース外に押し出される事件があった。しかし、その選手は棄権することなく、
なんとか3位で競技場に戻って来た。
その際、1位で戻って来た選手が出迎えられた拍手よりも、
3位のそれは、断然、大きかった。
 
「よく頑張ったぞ!!」
  
まさに、そんな響きの込められた拍手だった。
     
当時、アジアの中では日本が一番レベルの高い広告を制作している国だと思われていた。
アジアをリードしていると思われていた。日本国内では。
アジア最大の国際広告祭と謳われていたアドフェストに行くと、
それは正しく思えた。
しかし、それらが間違いだったことを、ここで思い知らされた。 
(SPIKESには、その前年も日本からは1〜2本の受賞しかなかった)
  
受賞のうれしさは、無くなっていた。
只々、ショックで、悔しさがこみ上げてきた。  
席に戻ると、日本のもう一人も下を向いていた。
すでに日本と韓国以外のアジア諸国は、
欧米のワールド・ワイド・エージェンシーが支配していた。
そして我々は、彼らに相手にされていなかった。
    
後にオグルヴィに入って知らされるのだが、
ワールド・ワイド・エージェンシーは、SPIKESだけを重視していた。
Campaign誌のランキングポイントもSPIKESは2倍だった。
オグルヴィでは、アドフェストはタイと日本のための賞だと見なされており、
両国以外は出品さえも禁じられていた。
  
もし、この年、私がアドフェストに派遣されて、
壇上で暖かい拍手に迎えられていたら、その後の無謀な挑戦はなかっただろう。
何が人生の分岐点になるか分からない。 
    
「コイツらと同じ環境で戦って、
 コイツらに勝って、
 コイツらを見返してやりたい」

私は英会話が全くできなかったが、海外移籍に挑戦することだけを決めた。
それが、2004年のことだ。
     
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直川、すまない。
頼まれた独立の話しまで、到達しきれなかった。
いつかまた、私にバトンが渡された時に記します。
    
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来週からのコラムは、尊敬する先輩、電通の岡村雅子さんです。
私の挑戦を、いつも応援して頂き、ずっと声をかけて頂きました。
それは、私に勇気を与えてくれました。
この場を借りて、御礼を申し上げます。 
 
岡村さんは、この春から電通ベトナムのECDとして赴任されました。
 
ベトナムは国民の平均年齢が27歳と若く(日本は45歳)、
経済に活気があり、広告産業も大きく伸びているアジアで注目の国です。
すでにワールド・ワイド・エージェンシーも触手を伸ばしています。
岡村さんの挑戦は、日本の広告界の明日に、
特に若者の明日につながっています。
心から応援したいと思います。 
  
岡村さん、どうぞ、よろしくお願いします。
  
(尚、One Showの審査で移動中のため、
 書き始められるのは11日(火)からになるそうです)
   

松尾卓哉の過去のコラム一覧

3591 2014.03.09 2004年のこと
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3589 2014.03.04 2003年から
3588 2014.03.03 直川
2177 2008.03.14 次の男
NO
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