リレーコラムについて

老人相撲

外﨑郁美

コラム2日目。
これまた話は、幼稚園時代にさかのぼる。
ある日のこと。園児たちは校庭に集合させられた。
おそらく40人くらい。
2クラス分はあっただろう。
何かと思えば
「今日は園長先生とお相撲をとりましょう」
とのこと。
え?聞いた瞬間、ちょっと驚いた。
だって、園長先生はもう70歳くらい。
いくら相手が幼稚園児だからって、
園長先生だいじょうぶなのかなぁ。

お相撲をとりましょう、と
先生たちが大量の園児を誘導し、
立ち位置なども調整しているわりには、
そこに土俵はなかった。いつもの校庭のまんま。
しかも園長先生はスーツだ。
いくらなんでも。相撲をなめていないか?
さらにこの園長先生、
なんとこの40人と一斉に相撲をとりたいという。
70歳の老人1人に、対するは5歳児40人。
いくらなんでも。この老人は正気なのだろうか?

不安がよぎるなか、
男子園児たちは遠慮なく士気をあげている。
勝つぞー!おー!
園長先生をぶっ飛ばせー!
地団駄をふみ武者震いする男子園児。
戦う前から興奮して叫ぶ男子園児。
そこにちょっと本格的なビデオカメラと
照明器具が設置される。
この相撲大会は中継でもされるのか?

「みんな、用意はいい?」
40人の園児たちは、一か所にまとめられた。
ちょっと遠くで、園長先生が
手を広げて姿勢よく立っている。
さあ、むかってこい。と言わんばかりの余裕の笑顔。
園児たちは、徒競走をする前のように身構える。
「はっけよい・・・のこった!」
先生の合図で園児たちは一斉に駆け出す。
うぉー!うぉー!
園長先生の体になだれこむように、
容赦なく、押して押して押しまくる。
「はっけよい!はっけよい!」
先生の合いの手にも気合いが入るが、
この園長先生、戦う気がまったくないではないか。
「あはははは。すごいなあ」
手を広げたまま、空をあおいで、
園児たちに押されるがままになっている。
「みんな、すごいんだから」
園児たちの勢いが炎上したところで、
先生のストップがかかる。
「はあい、終了!」

え?終わり?
「みんな、おつかれさまでした」
相撲の準備にやたら時間をかけたわりには、
たかだか15秒程度で試合は終了した。
そして勝ち負けは知らされなかった。
なんなんだ、このげせない感じ。

この数カ月後、
思いもよらないところで
この謎が解けることになる。
あれはおそらく、園内で開かれた
授業参観および、新園児の親たちにむけた
入学説明会でのこと。
大きなテレビに映し出された
幼稚園のプロモーションビデオ。
その画面いっぱいに映る園長先生。
次の瞬間。

わーーーーー。
園長先生に駆け寄るたくさんの園児たち。
「みんな、園長先生が大好きなのです。」
いかにもな感じの上品な女性ナレーション。
「みんな、すごいんだから」
園長先生が空をあおいで照れ笑い。

なるほど。
あれは、相撲なんかじゃない。
園児のみんなは、園長先生が大好き!
というプロモーションビデオの仕込みだったのだ。
相撲だと思いこんでいた園児たちの表情は、
真剣そのもの。駆け寄るスピードも本気。
園長先生への一途な愛を
ぶつけているかのように見えなくもない。

仕込まれた。
こうして私は幼稚園のときはじめて
仕込みというものを学んだのでした。

そんな感じで今日はコラム2回目でしたが、
ちょっと年末らしい仕事の紹介を。

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