リレーコラムについて

迷走時代2

鵜久森徹

この話がフィクションかノンフィクションか、
それは読む方の判断におまかせします。
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なんの経験もないずぶの素人は役者への
道を踏み出す。後先を考えないボクは、
勢いだけで前へと突き進んだ。
才能があるとか、ないとか、
そんなこと考えることもなかった。
ただ熱中できることが欲しかった。

大学に通わないで、
大学の卒業をめざす学生にとって
芝居の練習は次第に大きな負荷となって
のしかかってきた。

テスト前は経済学の専門書を何冊も何冊も
徹夜で読破する日々。
朝からは養成所での練習。
午後からは本公演に向けて劇団員との稽古。
夜は大道具や小道具をつくることに
時間をとられた。

ただ当時のボクは、なぜか劇団から大事にされた。
学校公演の出演メンバーに選ばれ、
都内の高校で芝居をして回った。
オーディションに合格し、
ちらほらとテレビに顔をだし始めていた。
さらに当時のCBSソニーからグループでの
楽曲デビューの話もあり、
夢が叶いかけている感触を手にしていた。

一方で誰もがイメージする通り、役者は貧乏だ。
公演の練習が始まるとバイトができなくなる。
そのうえ様々な稽古事に費用がかかる。
演技だけでなく歌、踊り、パントマイムなど、
身に付けたいことが増えるほど
当然のことだがレッスン料がかさんでいく。

目覚めるといつも財布の中には
決まって500円玉一個しかなかった。
電車に乗る金を惜しんで、
どこへ行く時もひたすら歩いた。
滞納していた家賃は9ヶ月。
最終的にすべてを払ってくれたのは、親ではなく、
ナイショの誰かさん。ひどいことしたなぁ
と今ごろになって反省している。

テレビがないボクは、テレビを見るために
芝居仲間のアパートへ、よく転がり込んでいた。
当時、その彼の家のテレビを質屋にいれて
手にした金でこっそり酒を飲み
大喧嘩になったのは懐かしい思い出。

芝居の世界にしか興味がなかったボクは
とてもバランスの悪い人間だった。
興味のあることには熱中して、
興味のないことはまったく心が動かないという
今も同じかもしれないが、
かなり欠落した性格をしていた。

テレビCMを見ても、
テレビCMをつくっている人がいるなんて
想像をしたこともなかった。
まして言葉を考える人がいるなんて‥。

サントリーの「タコハイ」のテレビCMを見て
不思議な色気で演じる女優・田中裕子に惹かれた。
「タコが言うのよね〜」という台詞も、
彼女が考えた言葉だと思っていた。
すごいことを考え、すごい演技を見せる
天才女優として、憧れのまなざしで
彼女のことを見つめていた。
このコピーが仲畑貴志という
偉大なコピーライターによるものだ
ということは知るよりもなかった。

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