リレーコラムについて

オッサン18切符

山下恵介

 3月1日から春の青春18切符の利用期間が始まっている。日本中のJR普通快速電車に1日乗り降り自由の特別企画乗車券。「青春18」と銘打っているが、年齢制限はなく、50過ぎのオッサンでも利用できる。
 鉄ちゃんを名乗るほどの情報も情熱も持ち合わせていないけれど、電車の中で本を読むのが好きだ。車体の揺れのせいだろうか、机でじっと座って読む時よりも目や肩が疲れにくいような気がする。読書に飽きたら車窓の景色を眺めながら缶ビールやウィスキーの小瓶で一杯やるのも楽しい。さだめし読み鉄、飲み鉄といったところか。
 もっぱら本を読むことと酒が目的なので、観光地や人気のあるローカル線をめざすことはまずない。上野駅や東京駅の改札内に入ってから、さて今日はどの路線に乗ろうかと思案することが多い。
 ふと妙なことが気になって、この切符を使ってわざわざ出かけてみた場所もある。
 真夏の熊谷は実際のところどれくらい暑いのだろうか。そう思って7月の猛暑日に上野から約1時間電車に乗って熊谷に行ったときは、駅前のロータリーを一周してから、すぐに冷房の利いた駅に逃げ戻った。
 開高健がロマネコンティを持ち込んでビールのコップで飲んだというジンギスカン屋の味を確かめに茅ヶ崎へ行ったことがある。駅前で営業しているその店の焼き肉は安くておいしかったけれど、肉には甘辛いつけダレがたっぷりかかっていて、これは絶対高級ワインよりもビールかホッピーのほうが合性がいいと思える味だった。

 2年前の地震の直後にスーパーの店頭からいろんな食品が姿を消したことがあった。1週間2週間と経つうちに、たいていの食品はまた手に入るようになったのだが、納豆とヨーグルトがいつまでたっても消えたままだ。どちらもないとすごく困るというほどの事もないけれど、冷蔵庫に常備していた食べ物なのでつい毎日売り場をのぞいてしまう。いったいどこまで行けば売っているのだろうか。そう思って2011年3月の終わりごろ、青春18切符を携えて下りの東海道本線に乗った。
 平塚、小田原、熱海と電車を降りて駅前のスーパーやコンビニをのぞいてみたが、やはり納豆もヨーグルトも見あたらない。熱海から電車に乗ってさらに西へ向かい、終点の沼津で降りる。駅前のアーケード街をしばらく行くと右手にスーパーマーケットがあったので中に入ってみたら。
 ありましたありました、納豆もヨーグルトも複数の銘柄が山積みで売っている。特に値段が高いというわけでもなく、中には安売りしている商品もあった。どうやら丹那トンネルが納豆とヨーグルトの流通の関所になっているようだった。
 まあそれほど遠くもない場所に、普通に売られているのだな。何となく安心して、その日は納豆もヨーグルトも買わずに上りの電車に乗り、熱海でもう一度途中下車して干物を買って東京に戻った。

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