リレーコラムについて

涙の結婚報告

納健太郎

僕と妻、4歳の娘、そして妻の両親、
5人は大阪市内のあるレストランに向かっていました。
今日こそ僕は店の人たちに、
結婚の報告をするつもりでいました。

その数年前、30歳を越えながらフリーターだった僕は、
そこでのバイトがきっかけで妻と知り合い、
なんやかんや経て結婚。
いつか報告に行こう行こうと言いながら、
なかなか行けないでいました。
やがて子どもが生まれ少し成長した春のある日、
いざ決行!となりました。
サプライズは大きいい方がいいと考え、アポなしで。
きっとみんな驚くやろなぁ…。

「納くんはよく働く」「お盆を拭くのがめちゃくちゃ速い」…。
不定期ながら1年半ほどお世話になっていた僕は、
そこそこの評価をされていました。
妻は一週間の短期バイトだったので、
覚えられていないかもでしたが。

頭の中では、今日起こるであろう感動のシーンが広がっていました。
「あの納くんが、うちで知り合った子と結婚したんやて!?」
周りを取り囲むウエイトレスやコックさんたち。
自然に沸き起こる祝福の歌。厨房からは祝いのケーキが…。

高鳴る胸を抑えつつ、レストランの扉を開けました。

店内では、店長はじめ懐かしいスタッフが数人働いていました。
まず店長に声をかけます。
「ごぶさたしてます、納です!!」
店長の顔にクエスチョンマークが浮かびました。(あれ!?)
「昔こちらでお世話になってた…」
“ぽかん”と表現する以外ない表情が返ってきました。
(忘れられてるやん)

店長は他のスタッフも集めてくれましたが、
全員が僕を覚えてくれていませんでした。
こっちはみんなの名前もしっかり言えるのに。

ほら!神戸から通ってきてた。ほら!ボクシングジム通ってた、ほら!ほら!
ヒントをいくら与えても、首を傾げられるばかり。
挙句の果てに「奥さんの方は覚えてる気がする」とまで言われました。
一週間の妻にも負けとるがな。

微妙にも程がある空気が流れました。
こんな珍しい苗字なのに、髪型も体型ほとんど変わってないのに、
なぜ!なぜ!なぜの嵐。“ドッキリ”だとよかったのですが、違いました。

まぁ、レストランの方々からすれば、
見覚えのない自称・元バイトの男が
いきなり営業中に(家族まで引き連れて)やってきて。
「結婚しました!」と宣言されても、
わけわからんかったでしょうけど。

(結論のようなもの)
●自分が思っているほど、
 他人は自分のことを覚えてくれていない。
●せめてアポをとっていれば
 悲劇は最小限にとどめられた。
●こういうとき義理の両親も一緒だと、
 恥ずかしさが倍増する。

NO
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