リレーコラムについて

ソファ

宇野元基

10年にわたる一人暮らしのうち2回ほど引っ越したが、
その間家具というものをほとんど買った事がない。

だが部屋には、3人がけのソファが2つ、
2人がけのソファが1つ、揃いのシングルソファが2つある。
ソファだけで計5個10人分のスペース。
何平米か忘れたがリビングの他にせまい寝室がひとつあるだけで
我が家は全く広くない。繰り返すが僕は一人暮らしだ。
おかげでリビングには立つ場所がほとんどない。
まるで部屋全体が大塚家具のソファコーナーのようである。
それがブランドものやビンテージなら自慢もできるが、
目の前には名もなきボロの中古ソファがひしめきあっている。

近所に住む友人や馴染みの店が、引っ越しや改装の度に
ソファを譲ってくれるうち、だんだん増えていったのが理由だが、
ここではいちいちその詳細について触れない。
まあとりあえず、どのソファにもそれぞれ思い出があるってこと。

今話題にしたいのは、10年前初めて出会ったソファの話だ。
最初のソファだけは、お金を出して手に入れた。

8年前、実家から東京東雲のワンルームに引っ越した当日の深夜2時。
初めて会社から帰宅した自分の城には、まだ家具はひとつもなかった。
机もない。椅子もない。ベッドもない。なぜなら荷物が届くのは翌朝だったからだ。

会社から持ってきた寝袋をフローリングの床の上に投げ捨てた僕は、
意を決してマンションの目の前にある24時間営業イオンの家具売り場に向かった。
引っ越しの手続きやら仕事やらで疲れきっていたのか、
新築マンションのフローリングの床で寝袋にくるまって寝ることに
強い不条理と抵抗感を覚えていた。
ベッドかその代わりになるものを今すぐ手に入れたかった。

売り場で、8000円の値札がかかった黒い3人がけの
可変式ベッドソファを見て購入を即決する。
「家が目の前なんで、今から運んで帰ります」とどんよりした声でいうと
優しいイオンの店員さんは、なんと家まで一緒に付き合って運んでくれた。
今思うとその姿は、通りかかった他人からしたら完全に夜逃げに見えただろう。

汗をかきかき二人で11階の部屋まででかいソファを運んだ。
我が家の初めての来客は、イオンの店員さんだった。
部屋を見まわしてひとしきり談笑したあと
「本当に何にもないんですね〜」と笑って店員さんは帰っていった。

中国でのイオンに対する暴動のニュースを見て最初に思い出したのは、その店員さんのことだった。
元気でやっていますか。僕は今、ソファを無駄に5つ手にいれました。

しかし、あの時の店員さんが、男性でなく、女性であったなら。
このコラムにもっと美味しいことを書けたに違いない。

まあとりあえず、どのソファにもそれぞれ思い出があるってこと。

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NO
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