リレーコラムについて

S先生

佐藤理人

さっき本屋で友人が連載中の音楽雑誌を立読みしてたら、
とある音楽系専門学校の広告が目にとまりました。
ギタリスト科、ボーカリスト科、作曲科と並んでそこにあったのは、

「DJ科」

え!?DJって、学校で教わるもんなの!?

「ピッチ合わせて!」「EQでアクセントつけて!」
「バスドラよく聴いて〜…、はい!ここでフェードイン!」(注:想像です)

B系の若者が、これまた同じくB系の先生の言う通りに、
テキスト片手にターンテーブルを熱心にいじる様子を想像したら、
なんだかおかしくなってしまいました。

っていうか、そんな教科書通りのDJ聴きたくねぇ〜。

と思ったところで、ふと気になったことがあります。

じゃあ、コピーはどうだろう。
教えられるものなんでしょうか。

あれはいまから5年前のこと。
ぼくは、いまは亡き広告批評主催の「広告学校」に通っていました。
クラスは「月組」。コピーライターのクラスです。
(その前は宣伝会議の「コピーライター養成講座」にも通いました。
 いちおう言っときますね。いちおう。)

マーケの2年間で正論と分厚いだけの企画書に飽き、
営業の4年間で自分に金儲けの才能がないことを悟ったぼくは、
一か八か「クリエーティブ転局試験」に挑戦することにしたのです。

そこからは月並みな話で恐縮なのですが、
広告づくりって思った以上に面白かった。
せっかく電通に入ったのに、
7年間もそれに気づかず生きてきたのです。
アホですね。

なかでもその面白さをいちばん教えてくれた人が、
中山佐知子さんが「隊長」と呼ぶ、

「S先生」

でした。

ある日、いつものように教室に入ると、
金髪のロン毛で黒いニットキャップを目のふちまでかぶり、
薄い色のサングラスをかけ黒い革ジャンを着た、
黒い革パンツ姿の男の人がいました。(たしかブーツも黒でした)

自らの出自を隠そうともしないその心意気や、すでに漢。
よく言えば、フォードマスタング(マックイーンのやつ)と
ハーレーダビットソンの似合うワイルド系。
悪く言えば、リアル若頭インダハウス。

身の丈6フィート(もうアメリカンサイズです)の堂々たる体躯に、
ちょっと練習したら波動拳とか出せちゃうんじゃね?
というくらいに太い腕。まさに、歩く憲法9条違反。
その貫禄たるや、夜の六本木で声をかけられようもんなら、
「自分、そっち系はチキンなんで」とソッコー謝っちゃいそうな勢い。

あれ?誰かウシジマくんにトイチでお金借りちゃったのカナ?

って思いました。マジで。

ところが聞けば今日の先生だとおっしゃる。
しかも超大御所。そりゃあこんな御仁に、

「愛だろ、愛っ。」

と言われたら、全盛期のホリエモンだってお金とは言わずに、
「やっぱ愛ですよね」と首を縦に振ったことでしょう。

正しい角材の握り方でも教わるのかと内心完全にビビってましたが、
ところがこれがどうして、ベラボーに面白かったのです。

その前のT先生も、その後のK先生も、
もちろんものすごく面白かった。でもS先生の授業は、
目つぶし・金的・かみつき以外はなんでもありのノールール、
というPRIDEやUFC的な面白さがあった気がします。
それは理屈というより、皮膚に直接浸透してくる感覚。
広告ってこんなに自由でいいんだと思ったのをよく覚えています。

そしてS先生の二度目の授業の日。
その日の課題は確か「ニート」に情けない別名をつける、
というものでした。
しかしそんな面白い課題にも関わらず、ぼくは心から楽しめませんでした。
なぜなら次の日がいよいよクリエーティブ転局試験の本番だったからです。

試験のことを、そして落ちたときのことを考えるだけで、
心臓はドキドキバクバク、冷や汗が止まりませんでした。
もしもそのときブチャラティがぼくの頬を舐めていたら、

「この味は!、、、恐怖を感じている味だぜ!
 アリアリアリアリ、アリーベデルチ!!!」

と言ったことでしょう。
わざわざ営業から管理部門に異動してまで1年間準備してきたのに、
こんなに緊張してたら受かるものも受かりません。
ああ、困った。どうしよう。

と、そのとき。
授業の最後にS先生がこんなことを言いました。

「どうせおまえらコピーはヘタクソなんだから、
 うまく書こうとせずに自分だけの面白い切り口を探せ」

おお、そうか。それならぼくにもできるかも。

すると、嘘のように気分が軽くなり、
翌日は落ち着いて試験を楽しむことができたのです。

結果は、合格。
ぼくは無事クリエーティブに異動することができました。

早いもので、あれからもう5年。
コピーは教えられるものかどうか、ぼくにはまだわかりません。
多分、一生わからないでしょう。

でも、あのときのS先生の一言を聞けただけでも、
学校に通ってよかったとぼくは思っています。

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