リレーコラムについて

ひんけつ

室井友希

私は日本女子大学というところで建築をやっていました。
でもあるとき美大に行きたくなり、武蔵野美術大学の「3年次編入学試験」を受けました。
その時の話です。

入試当日、12月の寒い教室には30人くらいの受験生が集まっていました。
編入試験の実技は、色紙をちょきちょき切って画用紙に貼って作品をつくるというものでした。
聞こえるのは、ハサミの音や、色を塗る音だけ。
受験番号1番の私も一番前の席で真剣に色紙を切っていました。

その時、カッターが色紙ではなく私の指を切りました。
定規を押さえる指が、ちょっとはみでていたのです。
みるみるうちにあふれる血。
思いのほか止まらなくて、あせる私。

持っていたティッシュも使い果たして、試験官のところに行きました。
試験官は私の指を見て「うわー」と痛そうに顔をしかめると、絆創膏をくれました。

しかし指からの出血はとどまることをしらず、
もらった小さな絆創膏もやがてダメになりました。
(これはやばいのでは?)
気づけば、指を切ってからもう30分くらい作業は手つかずのまま。
でも止まらない血。
(今、この試験を受けられなくなったら今の大学を卒業したあとニートになってしまう。
 でも血が止まらない。どうしようどうしよう)
編入試験をやっている美大なんてほとんどないからムサビしか受けてないし、
編入試験のためのポートフォリオも、1年かかって準備したのになんて考えていたら
完全に頭がパニックになりました。
そして、パニックのあまり今度は貧血がおそってきたのです。

視界がだんだんテレビの砂嵐のようになり、意識が薄れていく中、
「貧血は寝れば治る。」
ということを最後に思い出し、机にうつぶせになり、目を閉じました。

気がつくと、なぜか全身ジンジン痛くてほっぺたが冷たい。
机の上で気を失った私は、
知らないうちにそのまま横にころげ落ち、冷たい試験会場の床の上に横たわっていました。
打ちつけた衝撃でこだまする「ピーーーーーーン」という左の耳鳴り。
意識がもうろうとしたままの私をなんと、受験番号2番の人が懸命に抱え、起こしてくれている。
どこからどう見ても大丈夫じゃない私は試験官に
「大丈夫です。」
と告げ席に座り直すと、
脳には机から落ちたショックですごい勢いの血がなだれ込み、
ぐるぐると頭が回転しだし、
なんとか試験時間内に作品は完成し、
提出することができたのです(ちょっと血がついてたけど)。

そのあと誰とも目を合わせられず、風のように試験会場を去ったのは言うまでもありません。
4月の入学式に、受験番号2番の人の姿はありませんでした。

貧血になるたび、あの日のことを思い出します。
そして、アノ日になるたびに、貧血のことを思い出します。

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