リレーコラムについて

安全地帯で、コピーは書けない。

細田高広

会社に入って一度だけ、
思いきり殴られたことがあります。

拳ではなく、言葉で。

あれは、入社一年目の頃。
マーケティング志望で入社したのに、
どういうわけかコピーライターになって。

全くコピーを書いたことのない僕は、いきなり仕事に入ることもできず。
トレーナー(師匠)からコピーの個人指導を受けることになりました。

毎週ひとつの課題が出され、コピーを100本書く。
それを週に一度2〜3時間かけ、ひとつひとつ見てもらうのです。

僕の場合は、切り口までは出るのだけど、それを、泣けたり、笑えたり、
ハッとさせたり、と活きた届く言葉にするのが、どうも苦手でした。

「言葉の解像度が粗い」とか、
「こそこそ話すのか、大声で叫ぶのか、声色まで考えろ」とか。

トレーナーは、色んな言葉で、そこを突破させようとしてくれました。
でも、頭では分かっていても、身体的に分からない。
ついつい「聞こえのいいこと」を言って満足してしまう。

そんなある日、課題を見せおわったときに、
怒りを押し殺しながらトレーナーが言ったのです。

「自分だけ、安全地帯にいるんじゃない。」

僕は最初、意味が分からずキョトン。

「他人事のフリしてコピーを書いている、お前の態度が気にくわねぇ。
いちばん最初に自分が、傷つくような、驚くような、
泣けるような、笑えるような、そういうコピーを考えろ。」

言葉でガツンと殴られた、
そんな感覚になったのはその時が初めてでした。
コピーライターは、ただかっこいいこと言う人じゃなくて。
世間の常識を、言葉で、非常識にしていく人。
その言葉を発する本人が、真っ先に傷つくくらいじゃないと、
そんなことできっこない。

あれから4年。

仕事のポリシーを堂々と語れるほどではないけれど、
「自分だけ安全地帯にいやしないか」
それだけは、心がけて仕事をしています。

*******

金髪をたなびかせ颯爽と
福岡へ旅立った原智史さんより
バトンをうけとりました。
細田高広です。よろしくお願いします。

いきなり↑のような真面目な話を書こうと思ったのは、
2つの理由が重なり、入社時のことが思い出されたことによります。

1つは、そのトレーナーだった斉藤賢司さんが
TCCの審査委員長賞を受賞したという知らせを聞いたこと。

もう1つは、職種の違う後輩の相談にのっていて、
「細田さんは、天職を掴んでるから」と言われ驚いたこと。

>ケンジさん
読んでくれているかわかりませんが、
おめでとうございます!

>後輩くん
そういう訳で、未だに向いてない仕事をしてる感覚です。
でも、不向きを、自分向きにすることが成長のはず、と
日々言い聞かせています。

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