リレーコラムについて

土下座

野澤幸司

サッカー好きな人、ということで
川辺さんからバトンを受け取った
パラドックス・クリエイティブの野澤と言います。

川辺さんとはまだお会いしたことがないので、
他校のグラウンドから突然センタリングが
上がってきた気分です。

ヤナ○サワにならないよう、
4日間しっかりボールを蹴りたいと思います。

さて、サッカーの話題を探そうとしたのですが、
考えれば考えるほどマラドーナのコミカルな
映像しか浮かんでこないので、
今日は少しまじめな話をしたいと思います。

吉川英治の著作である「宮本武蔵」の中に、
いまでも心に残っているシーンがあります。
ただ、10年近くも前に読んだものなので、
細かいところが間違っているかもしれません。
間違っていたらごめんなさい。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

剣豪の里として知られる「柳生の里」に、
柳生兵庫という人物が剣を教える道場がありました。

その道場へ、毎日のように足を運ぶ子どもがいました。
名は牛之助、10歳たらずの百姓の子です。

武士になりたいという夢を持つ牛之助は、
外からじっと稽古をのぞいていました。
でも、百姓の子ということで
この道場への入門を諦めていました。

そこで牛之助は、町へむかう道中の森で
「麻の芽」を飛び越えるという独自の稽古をはじめます。

麻の芽は目に見えるほど成長が早いので、
1日でもサボると飛べなくなってしまいます。
牛之助は、来る日も来る日も練習を続けました。

そんな牛之助の心を知ってか、あるとき兵庫が
「真剣勝負で私に勝ったら道場に入れよう」と告げます。
牛之助は、その無謀な闘いに挑みます。

大剣豪と百姓の子ども。
当然、牛之助はじりじりと追い込まれていきます。

ついに壁際まで追いつめられた牛之助。
すると、森で鍛えた脚力によって
兵庫の肩を飛び越え、後ろへと回り込みます。

「敵の後ろにまわり込むなど卑怯」と言って
怒った兵庫は、牛之助に剣を突きつけます。
(すごい言い分ですが)

すかさずその場に土下座する牛之助。

ところが、命乞いをしているのかと思いきや、
体は兵庫とまったく違う方向へ向いています。

牛之助は、自分の家がある方角に向かって
「親不孝な息子で申し訳ありませんでした」と
頭を下げていたのでした。

そして兵庫に向き直り、
「約束です。斬ってください」と告げます。

その姿を見た兵庫は、
「お前を私の弟子にする」と言いました。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

後で調べたのですが
この牛之助は、のちの荒木又右衛門、
言わずと知れた大剣豪にまで
成長することになります。
(正確な史実はわかりませんが・・・)

宮本武蔵がいっさい出てこない
このシーンを読んで、
20歳の僕は涙腺を一刀両断されました。

正面に立っている人に顔を見られないよう、
常磐線の車両で下を向いて
歯を食いしばった日を思い出します。

野澤幸司の過去のコラム一覧

3273 2012.09.01 おくさん
3272 2012.08.30 小林くん
3271 2012.08.29 Fくん
3270 2012.08.28 黒原くん
3269 2012.08.27 葛西くん
NO
年月日
名前
5691 2024.04.20 長谷川輝波 #マイナス5キロジーンズ@韓国の街中
5690 2024.04.17 長谷川輝波 言葉オブザイヤー@新宿ゴールデン街
5689 2024.04.12 三島邦彦
5688 2024.04.11 三島邦彦 最近買った古い本
5687 2024.04.10 三島邦彦 「糸井重里と仲畑貴志のコピー展」のこと
  • 年  月から   年  月まで