リレーコラムについて

六本木のキャバクラ

川上徹也

キャバクラなるものに初めて行った。

この歳で初めてというのは恥ずかしいが事実だから仕方ない。
今までにチャンスがなかった訳じゃない。
ただ飲んでいて「さあ六本木!」ということになると、
なんだかんだ理由をつけて帰っていただけだ。

別に女の子が嫌いな訳ではない。
いやどちらかというと好きだ。
かなり好きだーー!!といってもいいかもしれない。

ただそういった(どういった?)系の店が苦手なだけだ。
会社員の頃には、何度か北新地(大阪)や銀座のクラブに
連れていかれたことがあったが、私には苦痛でしかなかった。
それに座っただけで何万円もするらしいではないか。
自分で払ったことないけど。

ただその日は途中で抜けられない事情があった。
仕事をしている某代理店コピーライター氏の
TCC新人賞受賞のお祝いだったのだ。
メンバーも3人しかいなかったし。

キャパクラの店内は想像していたのとほぼ同じだった。
初めてなのに初めてな気がしないのは不幸である。
・・などと高度情報社会の悲しみにひたっているうちに
隣に女の子がやってきた。けっこうカワユイ?

ただ想像できなかったのは15分ごとに女の子が
コロコロと変わることだ。
お陰で何度も何度も何度も何度も同じ会話をするハメになる。

とりあえず喋ることがないので歳でも聞いてみる。
女の子の歳はきまって19才だ。
本当は22才でも16才でも、ひょっとしたら66才でも
この店ではみんな19才なのだろう、たぶん。

逆に歳を聞かれる。
「いくつに見える?」なんて世界で一番紋切り型の答えを
しそうになるのをこらえて、ためしに「55才」と言ってみた。
ちなみに私の実年齢は30代後半なのだが貫祿がないせいで、
若くみられることが多い。
「55才」は一応ギャクのつもりだったのだ。
だがその女の子は「へえー55才にしては若く見えるね」と平然と答たえた。
多分、彼女にとって25才以上の男はみな同じ年齢に見えるのだろう。

職業を聞かれる。
きっと私の職業なんて彼女にとって
世界で一番興味のない事柄に違いないのに。
私は大工と答えた。
コピーライターよりはかなりカッコイイ気がしたからだ。
クギひとつまともに打てない私にとっては、
大工さんは憧れの職業でもある。

「最近、どんなモノ作ったんですか?」
「瀬戸大橋」
「へえー、すごいですね」

世界で一番どうでもいい会話が続く。

時計を見る。もう4時を過ぎている。眠い。
チラっとプロダクションプロデューサー氏や
代理店コピーライター氏の方を見た。
ふたりとも楽しそうに隣の女の子の耳元で喋っている。
私は気付かれないようにそっとため息をついて、
女の子に瀬戸大橋建設の苦労話を語ることにした。

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