リレーコラムについて

若いもんのチカラ(1)

田畑尚門

西武新宿線上井草駅から歩いて30秒。小ぶりなビルの地下1階に
シャイアン山本ボクシングジムはあります。
会長は山本幸治。かつてシャイアン山本のリングネームで
日本ライト級タイトルを5度も防衛した名チャンピオン。
チーフトレーナーの大嶋宏成は“入れ墨ボクサー”として人気を博した
日本ライト級のトップランカーでした。
僕は今、縁あってこのジムでセコンドをつとめています。

試合前の控え室。グローブのヒモがほどけないように
手首部分を真っ白なテープで入念に固定します。
こうなるともう、ボクサーたちはどこへも逃げることはできません。
次にこのグローブをはずすとき、自分はいったいどうなっているのか?
彼らは観客席から見え隠れする通路の奥で
あおざめた顔で自らを鼓舞し、出番を待ちます。
そして最悪の場合“死”すら待ち受けるリングへ、
日常から遠く遠く離れた場所へと階段を上っていきます。

よほどの有名選手でもないかぎり
彼らはボクシング以外の仕事を持っています。
工場や倉庫に勤務していたり、コンビニの店員だったり。
夕方までみっちり働いたあとは同僚たちが遊びに行くのを尻目に
ひと息つく間もなくジムへと向かいます。
そこでその日残っているエネルギーのすべてをしぼり出す。
翌朝は人より早く起きて、ロードワークに出なければなりません。

―――きのうより少しでもすぐれた自分になるために。
ボクシングジムには、懸命の日々を過ごす若いもんが大勢います。
彼らの近くにいると、「おっ、今の日本も捨てたものじゃない」などと
うれしくなることが度々あります。

僕とボクシングのつきあいは
自分自身がリングに上がった時期もふくめて優に30年を超えます。
それはこの競技のもつおもしろさや奥の深さに魅せられたからですが
それだけではありません。
ボクサーというこの世でもっとも真摯な生き方をする人たちを
見つづけていたいから、というのも「長いつきあい」の大きな理由です。

さて本日は広告の話はゼロでしたな。
明日はこのボクシングジャンキーのおっさんから
若手広告クリエーターへ、ちょっと強引なメッセージを送ります。

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