リレーコラムについて

いと、をかし - 終焉 -

岡村雅子

をかし ●普通の状態と異なるものに対して強くひかれるさま。せつないこと。

朝ラジオをつけるとジョンレノンの「イマジン」が流れてきた。今日は12月8日。彼が凶弾に散った日だ。
20年以上も前のその日、私はまだ学生で、ちょうど期末試験が始まる前の日だったにも関わらず、友達と一晩中電話で話してしまう。ジョンが作ってきた曲のこと、アビーロードのジャケットのこと、オノヨーコのこと、イベント「ベッド・イン」のこと、話題はつきない。実は私はポールのファンだったし、試験のことを考えると絶対に電話を途中で切るべきだった。でも、泣きじゃくるジョン・ファンの彼女とおしゃべりすることの方が、セーラー服を着ていたいち少女には、生きていくうえで重要に思えたのだ。案の定、試験の結果は散々。先生には呼びだしをくらう。でも、私はこのとき、自分がちょっぴり大人になったように感じた。いま思えば単なる劣等生の言い訳でしかないのだけれど。
おととい、女優の原ひさ子さんが亡くなった。この人の演ずる品のあるおばあちゃん役が子供の時から大好きで、縁側で彼女がお茶をすすっているシーンや、垣根の横の道を和服姿で歩くところなんか、目をつむるだけで即座に浮かんでくる。身長150センチ。古きよき時代のおばあちゃんだった。この同じ日、中国がフランスからエアバスを150機購入する契約を結んでいる。カタログ価格にして1兆円を越す大型のお買い物、もちろん前代未聞だ。ひとつの時代が終わり、つぎの何かがやってきた。
急に卑近な話になってしまうが私の身の回りでは、この2日間でいろいろなものがこと切れた。玄関ポーチの電球、携帯用のハンドクリーム、歯磨き、プレストパウダー(男性にわかるように書くと、おしろいです)、顔につけるランコムのクリーム、花瓶の菊、マヨネーズ、黒砂糖、J.Loのコロン、ビタミンE、ヘアリンス・・・そんなみんなで合図をしたかのようになくならなくても、と思うのだが見事になくなった。この終焉がなにを意味するのか、いやなんにも意味しない。ただ週末は買い物に行かなくちゃ、ということだ。年末の光景としては、悪くない。

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