リレーコラムについて

オレゴンの大地に散った、大和魂

大澤範之

その瞬間、国家のために戦う人の気持ちとはこういうものかっ!これが、
大和魂というものなのかっ!と、熱くたぎる想いが体じゅうを駆け抜けた。

アメリカ合衆国オレゴン州コーバリス。人口およそ2万人という小さな街。
今から11年前、その街にあるオレゴン州立大学という大学に、19歳の
私は短期留学をしていた。留学期間は5カ月。留学生向けの語学クラスに
いたが、体育だけは他の一般学生と同じ授業を受けていた。その体育では
サッカーをやることになった。日本人は、私、ただ1人。

小学生の頃。私はサッカー少年で、地元の埼玉では結構強かったサッカー
少年団に入っていた。ポジションはキーパー。最初にやったポジションは
希望していたMFだったものの、途中でキーパーにさせられてしまった。
初めて出た公式戦。キックオフ直後に私は、ボールを奪っていいところを
見せようと気負いすぎてしまったせいか、いきなり相手選手のミゾオチに
渾身の跳び蹴りを喰らわせてしまったのだ。その選手は、もんどりうって
倒れたまま動かなくなり、結局タンカで運ばれていった。幸い大ケガには
至らなかったものの、それ以来、足を使わないキーパーに転向させられた
のだった。その後は決勝トンネルゴールを許すなど散々で、数ヶ月後には
サッカーから離れていた。

留学先のサッカーの授業では、最初はドリブルやトラップなどの基本的な
練習を行い、何回目かの授業からは試合をすることになった。

「Goalie」。それは、英語でゴールキーパーの略称。ポジションを決める
際に、オレがGKをやると宣言した。正確に言うと、英語をほとんど喋る
ことができなかったため、オレがGKをやろうか、と、言いたげな表情で
「Goalie」と言った。一応GK経験があったのと、前の晩にたまたまその
言葉を知って発音してみたところ、何となくその語感が好きだったこと、
そして、略称を知っているなんてコイツはただの留学生じゃないな、と、
アメリカ人たちに思わせることができるんじゃないか、そう考えたことが
GKをやろうと思った理由だった。略称どころか、アメリカ人たちもよく
知らないほどの言葉であることを聞いたのは、だいぶ後のことであった。

試合がはじまった途端、Goalieの私はア然とした。

目の前にいたはずの味方ディフェンダーが、全員揃って一目散にオーバー
ラップして攻め上がってしまうのだ。せっかくポジションを決めた意味は
まったくなく、敵陣にボールがある時は全員FWになってしまい、自陣に
いるのは私だけ。ボールに集まってしまうのは素人にはよくありがちだが、
そのときは、日本人だから誰も守ってくれないのではないかと思えてきて、
なんだか悔しくて寂しい気分になっていた。

事件は、突然起きた。

相手チームの選手が中央でパスをインターセプトして、全速力でゴールに
向かってくるのだ。案の定、うちのディフェンダー陣は全員攻撃参加済み。
既にあきらめて戻ってくる気配はなく、相手がセンターサークルを超えた
時点ですでに私と1対1の状況になっていた。向かってくる相手は、身長
190cmほどある、絵に描いたようなムキムキマッチョ。完全に獲物を
射程圏内にとらえた肉食獣の目をしていたのを今でもはっきり覚えている。

その時だった。冒頭の念が私の体を揺るがせたのは。

全速力で向かってくるムキムキマッチョと対峙する、孤独な日本人の私。
アメリカで何かをつかもうと意気込みだけはよかったが、ルームメイトに
「Nice to meet you」さえ通じず、着いた途端に日本へ帰りたくなった私。
サッカーのあとにハマっていたバスケットボールなら本場でも通用すると
思い込んでいた矢先、黒人の女の子に思い切りブロックショットを喰らい、
激しく自信を喪失した私。そんな留学生活を送っていた私にとって、その
瞬間はもはやただの体育の授業を超え、日本人としての誇りを取り戻すか
どうかの問題だったのだ。

「これは絶対に止めなくてはいけない。日本人としてこれ以上ナメられて
たまるかっ!!」

そんな勝手な想いなど想像もしていないだろうムキムキマッチョが、来る。
私は重心を低く構え、シュートに備える。打て。来い。絶対に止めてやる!
しかし、ムキムキマッチョは打たない。ペナルティエリアに入ってきても
シュートを打とうとしない。・・・これは私を抜く気ではないか。仮にも
私はGK経験者。素人にそんなことまでされたら、それこそ屈辱である。
ならば、お前ごと止めてやろうではないかっ。大和魂を思い知るがいい!

・・・

・・・

・・・

私の人生には、数分の空白がある。意識が戻った時には、私は芝生の上に
横たわって水をかけられていた。みんなが心配そうな顔で私を覗き込んで
いた。その中にムキムキマッチョもいた。後で聞くとムキムキマッチョに
すごい勢いで突っ込んでいたそうだ。しかも頭から。GKの動き方の基本
など、すっかり忘れていたらしい。そして、そのまま病院に運ばれた。

診断の結果は、脳震とう、右肩鎖骨を複雑骨折。全治2カ月。

今も自宅には一枚の色紙がある。あのとき体育の授業に出ていたみんなが
お見舞いにと書いてくれた寄せ書きだ。そこには、

「お前みたいに勇敢なヤツを初めて見た」
「キミの勇気を尊敬する」

といった、やたらと勇ましさを称えるコメントが並んでいる。それを見た
友だちには、「コブラを素手で捕まえた」とか「オレゴンの山の中で熊を
追い払った」とか、そんなようなことにしてある。

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リレーコラムをご覧の皆さま、はじめまして。

自己紹介が遅くなりました。先週の伊田さんからバトンを引き継いだ大澤
です。5年間、リクルートでアルバイトとしてお世話になり、ずっと求人
広告の制作をしていました。そのときにリクルートで一緒だった先輩が、
パラドックス・クリエイティブという会社を創る際に声を掛けてもらって、
現在に至ります。3人だけだったメンバーは設立3年で15名と賑やかに。
みんな若くて個性派揃いの会社です。

コラムですが、何が書けるのか、迷いました。お読みになる方々はきっと、
広告が好き、コピーに興味があるという方が多いと思いますが、とにかく
読んでよかったと思われるものになればうれしいかぎりです。と言いつつ、
コピーや広告についてはまだまだ勉強中の身ですので、バカ話くらいしか
書けませんが、お付き合い頂ければと思います。よろしくお願いします。

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