リレーコラムについて

遐邇

齊藤美和子

6歳の時、家出をしました。
テレビや絵本と比べて私の毎日には刺激がない。
ラジカルな子供だった私は、生活に波紋を起こそうとしたのです。
とにかく遠くに行けば、もっと面白いことがあると信じて。
でもいざ歩き始めると、水泳教室の先の通りが渡れません。
その先へ、一人で行ったことがなかったのです。
水泳教室と、小学校と、大通り沿いのスーパーマーケットに囲まれたエリアが、
当時の私の行動範囲でした。
ひとまず近所の公園まで引き返して、家から持ち出した絵本を読んだり、
スケッチブックにお絵かきをしたりして、時間をつぶしました。
でもなかなか、もう一度歩き出すことができません。
日が翳り始め、心細さもつのります。
結局挫折して家に帰ると、
「さがさないでください」という書き置きさえ、
発見されずにテーブルの脇に置かれていました。
「ごはんよ、手洗ってきなさい」いつも通りの母。脱力する私。
でも不思議と満足感がありました。
遠くまで歩けなくても、冒険ができることを知った日でした。

あれから20年以上経って、
ひとりで大阪に赴任したり、
ひとりで地球の裏側にも行けるようになりましたが、
あの複雑な気分はいまだにはっきりと覚えています。
本当はあの日、私は出発したのかもしれません。
心をどこかへ連れていくコピーを目指して、これからも頑張ります。

一週間、どうもありがとうございました。
来週は東急エージェンシーの原さんです。新人賞の同期で、仲のよい友達です。
快くバトンを受け取ってくれて、ありがとう!よろしくおねがいします。

【遐邇】 遠い所と近い所。遠近。(広辞苑より)

齊藤美和子の過去のコラム一覧

1216 2004.07.17 遐邇
1215 2004.07.16
1214 2004.07.15 嘉事
1213 2004.07.14 夏時
1212 2004.07.13 家事
NO
年月日
名前
5772 2024.10.04 高崎卓馬 名前のない感情
5771 2024.10.03 高崎卓馬 母のひとりごと
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