リレーコラムについて

第4話:海藤の言葉

山際良子

もうこの言葉は使えない…
『い』もそろそろだぜ

今のうちに
いっぱい言っておいた方が
いいんでないかい?

今9回くらい言ったかな?

冨樫義博先生作『幽☆遊☆白書』より

子どもを庇い交通事故に遭った不良少年・浦飯幽助。
エンマ大王に課された試練をクリアし生き返った幽助は
霊界探偵となり、人間界で悪事を起こす妖怪と戦うことに。
戦いの中で幽助の仲間となった蔵馬(普段は男子高校生として
暮らしているが正体は妖狐)。
蔵馬が“言葉が武器”の海藤優と対峙した場面での
海藤の挑発的な言葉。

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コピーライターを超ざっくり表現すると、
“言葉が武器”の仕事と言えますよね。
今回、取り上げるのは喩えではなく
“言葉が武器”の相手との魂を賭けたバトル。

海藤の能力は“禁句”(タブー)。
最大半径10mの彼の領域(テリトリー)の中で、
設定された“言ってはいけないこと”を言うと
魂をとられてしまいます。暴力行為は無効。
じゃあ、ずっと黙ってればいいじゃん。
というほど話は単純ではなく、海藤の口車に乗って、
次々に仲間の魂がとられていく事態に。
蔵馬は、制限時間を45分とし、
1分ごとに、あいうえお順で“禁句”(タブー)が
一文字ずつ増えていく勝負を提案します。
頭のいい二人は、5分が経過して
『あ』行がすべて言えなくなっても、

しゃべれるもんだね
ひとつの列がなくなってもさ

ひとつ間違ったら
そろそろ口にするかもしれんな

といった調子。
私なら、1分ともたずに
魂をとられる自信があります!

リアルタイムで読んでいた頃、
コピーライターという職種を意識したことはなく、
私は言葉で生きていく!などと考えているはずもなく。
それがなぜか、
とんでもないパワーの拳と拳で殴りあったり、
炎や氷、風などを操り派手な必殺技をかましたり、
ベストバウトが数ある(言い方おかしいか)
幽☆遊☆白書の中でもこの異色のバトルが
やたら気に入っていて、大人になっても
脈絡なくふと思い出しては
「あれすっごい面白かったなぁ…」と
しつこく反芻してしまいます。

制約があってこそ、新しいアイデアは生まれるもの。
みたいな教えってよく聞きますが、
広告はその典型かと。
トリッキーな言葉を駆使することや、
言葉に仕掛けを施すことが
コピーライターの仕事の本質ではありません。
でも、実務では制約だらけの無茶振りをされる
ケースも少なくないですし、
日頃から言葉遊びをしてみたり
頭を柔らかくしておくと、
いつか我が身を助けるときが来るかも。
魂をとられずに済む!

※『あ』行を使わずにコピーを書いてみようとか、
そういうすすめではないですよ!!

90年代少年ジャンプの
熱さと軽さが凝縮されたような作品。
軽さ、とは書きましたが、
漫画の中からふいに
剥き身の言葉で現実を突きつけられる。
そんな強烈な経験を初めてしたのが
幽☆遊☆白書だったという方が、
私と同世代の方には
結構いらっしゃるのではないかと。
たとえば、

世の中に善と悪があると信じていたんだ
戦争もいい国と悪い国が戦ってると思ってた
可愛いだろ?
だが違ってた
オレが護ろうとしてたものさえ
クズだった

令和の少年ジャンプ作品にも
多大な影響を及ぼしている名作が、
ジャンプコミックス版では全19巻、
文庫版では全12巻で完結。
年末年始の一気読みにぴったりですね!

超余談ですが、
5年以上前だったかに
iPhoneで幽☆遊☆白書と打ったら
ちゃんと「☆☆」有りで一発変換されて、
妙に感動しました。

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いくらなんでもここまでの大騒ぎになるとは…
連載開始時点では誰も予測できなかったはず!な作品から次回

『頑張れ!!』

です。
よろしくお願いします。

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