リレーコラムについて

『今中155』

森田一成

2004年 秋
ケータイに一通のメールが。

「ラストチャンスやと思ってます」

姉からでした。
何を言いたいのか まったく分からなかったので電話しました。

「あのな、もう、ラストチャンスや思てんねん」

いやいや、なにが?

「わたしももう年やんか、ラストチャンスやねん」

いやいや、だから~。なにが?なにが?

「もうやるしかないかな~って、ラストチャンスやし」

だから、ちょっとお姉ちゃん。なにがラストチャンスなんよ?

「かずなり、一緒にM1出よ!」

その日からネタ作りが始まりました。

もともと姉は僕より活発な人間でした。
生徒会の副会長をしたり、ソフト部でキャプテンしたり。
ちっちゃいミスコンをとったこともあります。
表に出たい欲求があるタイプなのは知ってました。

僕はといえば、人前に出るのは得意じゃないですが 一応関西圏の人間です。
漫才というかお笑いというか、そういうものに興味がない訳ではございません。
中学高校時代は、友人と漫才コンビらしきものを作っていたこともあります。

やるなら今しかねぇ的な衝動に駆られ(今でしょ。ではない)、コンビ結成。
当時、姉は森下 僕は門前仲町に住んでいて近かったこともあり
毎日毎晩 ネタ作りネタあわせをしました。

なんなんでしょうか?
ネタあわせをするたびに、しっくりきます。
‘姉弟ならではの間’ って ほんまにあるんやなぁと思うぐらい、しっくりきます。
根拠のない自信ですが、「いけるんちゃうか?」という想いが頭をよぎってました。

当日。
会場は、すごくちゃんとした会場でした。
一回戦でしたが吉本の若手もたくさん出てたので
追っかけらしき女子高生たちが一列目にビッシリと陣取っている、そんな舞台。

出番までの間、会場の廊下や駐車場でひたすら稽古しました。
当時は今より男女コンビが少なかったせいもあり、取材みたいなのもされました。

記者:「へ~、姉弟なんですか?珍しいですね~」
 姉:「そうなんですよ」
記者:「ネタはどっちが書いてんの?」
 弟:「僕が書いてます」
記者:「どっちからコンビ組もうって言ったの?」
 姉:「わたしから言いました」

的な取材。
カメラもあったので、高揚したのを覚えてます。

出番が近づくにつれ テンションがあがってきました。いい緊張感とでも言いましょうか。
アドレナリンが出るというのは、こういうことなんや~と思ったり。
根拠のない自信ですが、「いけるんちゃうか?」という想いが頭をよぎってました。

いよいよもうすぐ本番。
舞台袖で前の組のネタを待っているとき、

姉:「かずなり、ありがとうな」
弟:「え?」
姉:「一緒にやってくれて」
弟:「い、いや。こっちこそ、ありがとう…」

なんか泣きそうになりました。
いやいや、お姉ちゃんが誘ってくれたからやんか~。
みたいなことを言おうとしたんですが、ほんまに涙が出そうで。
ヤバイと思っていると前の組が終わりました。

弟:「よし、いこか!」
姉:「おう、がんばるでぇ!」
弟:「よっしゃ、やったるぞぉ~!!」

M:♪~イズ!ガンガンガン
  ♪~イズ!ガンガンガンガンガンガンガン!パーラ!
          ※この曲は、一回戦で流れません。あくまでイメージです。
   ・
   
   ・
  
   ・
 
いやぁ~、ほんとにいい思い出ですね。
なんでも若い頃にやっとくべきですよね~。
いい経験をさせてもらいま…

え?
え?なに?なに?
漫才、どうなったかって?
え。。。聞きます・・・?

え~…っと・・・
え~…ネタがとんでしまったんです。。。
僕が。
僕が書いたネタなのに、僕がセリフを忘れてしまいました。
最初のツカミですべった瞬間に、‘パーーーーーンッ’って。

その後 覚えてるのは、
会場の静けさ と 困った顔で弟を見つめる姉の顔だけです。。。

会場からの帰り道、心に決めたことがあります。

「二度と表には出ないでおこう、コピーの仕事を頑張ろう」

これからも、裏で頑張ります。

お姉ちゃん、気づかせてくれてありがとう。

ちなみに今日のコラムのタイトル、
2004年10月17日に2分間だけ存在した姉弟コンビのコンビ名です。
http://www.m-1gp.com/2004/1017p/

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ご意見ご感想、お姉さんかわいそぉ~等は、morita@bigface.co.jpまで。

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