リレーコラムについて

転職と旅とコピーライター

岩崎竹彦

2回目です。で、その後、僕は広告プロダクションを2、3社ほどふらふらと経由して、その後フリーで仕事したりしながら、今の読売広告社に至るワケです。なぜそんなに会社変わるのか?まぁ、これは性分なのかもしれません。それと、長期の旅にでれるというのが転職人生のいいところです。次の会社に行くまでにのんびり命の洗濯。こたえられません。

ところで『旅行人』という雑誌を御存知ですか。50ページほどの月刊誌なのですが、僕がずっと愛読しているバックパッカー向けの旅の雑誌。「旅先の大ピンチ 私、死にかけました!」とか「何もない街へ行く」「おみやげ鑑定会」などの特集や世界中の安宿やビザの取り方、旅で発見した珍品などの情報が満載の1册です。これを読んでいる方で旅好きの人は一度見てみてください。バックパッカー界である国や街にとりつかれて長期滞在してしまうことを「沈没」といいます。その病がひどくなると永住してしまう人もいます。こわいですねぇ〜。

海外を旅しているといろんな人に会います。ある時、スペインの田舎でSさんという人に会いました。宿のレセプションの人が「おまえのほかにもうひとり日本人が泊まってる。内線電話してみろ」と言います。言い出したらきかないのがスペイン人なので電話してみて、自己紹介して、いっしょに食事に行くことになりました。

いろいろ話してみると彼は医者で外科医でした。最初はちゃんと病院に勤務医として勤めていたらしいのですが、どうもしっくりいかない。「なぜ?」と聞くと、彼はスペインの極上のリオハ産ワインを片手に語りはじめました。彼は異常とも言えるほど手術が好きで御飯を食べるより手術が好き、腕もいい方だそうです。でも医者はオペがうまいだけではやっていけないそうです。患者さんやその家族との会話なども重要です。だけどSさんはそういうことが苦手で、いろんな誤解を受けたりつらいことが重なっていった。そこで彼はその息苦しさにたえ切れず病院をやめて旅にでた。いろんな国を旅していくうちにメキシコに「沈没」してしまったそうです。みんな陽気で明るくストレスを感じない。あああ、こんなところで暮らしたい。それ以来、Sさんは救急病院の深夜の宿直のバイトをしながらメキシコに通ってるそうです。「いや〜思う存分オペもできてうれしくて」と眼をキラキラ輝かせて語るSさん。そのうちお金をためてメキシコに行って何か商売を始めると言っていました。

その後、Sさんとは会っていません。でも、ときどき深夜、Sさんのことを思い出すことがあります。救急病院の無影灯の下、白衣のSさんが鋭いメスをもってオペに臨む姿を。その患者にはなりたくないけど、Sさんは今でもメキシコの大地を夢みながらメスを走らせているのでしょう。いや、もうメキシコに永住してしまったのかもしれません。

いつかSさんにメキシコで会ったら、テキーラを飲みながらゆっくりと語りあいたいと思います。

今日はここまで。

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