リレーコラムについて

上新庄の青春・男気篇

清水清春

「さあ、飲みに行こかっ!」福島と名乗るその食いだおれ人
形似の先輩は、いきなり僕を誘いました。
「え?いや、あの、どこへ?」「ええスナックがあるんやが
な。めっちゃきれいなお姉さんがいてるでえ」「お姉さん?
(ちょっとそそられる)でも、あした入学式ですし、無断外
出はちょっと・・・」「かめへんかめへん、大丈夫やて。先
輩の経験から保証したる」
誘われるとどうも弱い田舎者の僕は、その先輩の詳しいこと
も知らないまま、タクシーに乗せられて飲みに出かけてしま
ったのです。
「あら福島君、いらっしゃい。つけ払いに来てくれたん?」
薄暗いカウンターの中でものすごく妖しい赤いライトを浴び
ながら、お店の女性は微笑みました。
(あかん、入学もしてないうちからえらい世界に足つっこん
でしもた!)鼻の奥がつーんと痛くなるような化粧の匂いに
むせながら、ふと奥を見ると、角刈り長ラン、額に傷のある
目つきの鋭い人が挨拶するではありませんか。
「押忍」。
(もしかして、オウエンダン?)おしっこちびりそうになっ
てる僕に、福島さんは笑いながら言いました。「いや、彼は
同郷出身の応援団の後輩やけど、わしは違う、吟詠部や」
「ギンエイブ?」
「そや、詩吟のクラブや」(詩吟?応援団やないんや!)
ほっと胸をなでおろす僕に、福島さんはたたみかけました。
「わしは君が気に入った!あの自己紹介のイグアナの物まね
!似てないジャイアント馬場!それでも自己主張するその精
神!すばらしい!おもろすぎる!」
よくわからん誉め言葉にとまどっていると、いきなり僕の目
を覗き込んで言いました。
「君、わしと一緒に男を磨いてみいへんか?」
高校時代、野球部の補欠でいじけてばかりいた僕は、この言
葉に反応してしまいました。
(男を磨く・・・そうや、男らしく、強くなるんや!)
飲み慣れない水割りが回ったせいでしょうか、あの食いだお
れ人形みたいな福島さんの顔がめっちゃ男らしく見えてきま
した。
「はい!清水は男になりたいです!」
翌朝気がつくと、僕は福島さんのアパートに寝てました。い
きなり無断外泊。酔いは醒めたけど、心は冷めず。そこから
入学式に出席したあと、吟詠部のBOXに行き、入部の申し
込み用紙にサインしました。そしてそのまま、先輩と一緒に
新人の勧誘を始めました。
「そこの君!男を磨かへんか!」
でも、お調子者の僕はその時まだよく知らなかったのです。
(ところで詩吟って、何や?・・・・・つづく)

清水清春の過去のコラム一覧

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3331 2012.12.13 モノに笑いを宿せ
3330 2012.12.12 うまずい広告
3329 2012.12.11 うまずい人
3328 2012.12.10 うまずい
NO
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