リレーコラムについて

かわいそうな家が、休日を変えた。

丸原孝紀

「いや、いま、ホント忙しくて…」そう言っておけば許されるとでも思っているのでしょうか。口ぐせのようになっていた「忙しくて」が、すっかり心に染み付いていました。家でご飯を食べているとき、ふと妻が言いました。「家がかわいそうや」うむ、と、周りを見渡すと、実にえらい散らかりよう。まあ、知っていました。そして、慣れていました。しかし、こういう荒れた状態を普通にしてしまっていることはいけない。妻の一言に、気付かされました。

いったん気になると、食卓のまわりだけでなく、家のあちこちが気になりだします。素敵な暮らしを夢見て住み始めた家なのに、ついつい、目の前の忙しさに溺れていや、甘えて、整えたり手入れをしたりすることを疎かにしてしまっていたのです。

いままでは休みとなると、散らかっていながらも落ち着いてしまうわが家でダラダラ過ごしたり、気晴らしにと外に出たりしがちでした。でも、もうそんなことはしていられない。床が目につけば置きっぱなしのものを黙々と片付ける。本棚やCDラックを前にすると、いらないものはないかチェックする。水周りの澱みをこそぎ落とす。ベランダの荒れたプランター類を整理する…。これまで気をそらしたり晴らしたりするために使っていたエネルギーが、家の中や周りに注がれるようになりました。

いまでは、外に出るなんてもったいない、とまで思うほどに。時間があれば、家のどこかを整えられないか、きれいにできないかと考え、ゴソゴソ動くように休みの過ごし方がすっかり変わってしまいました。この変化は始まったばかりですが、掃除、日曜大工、園芸と、小さな家でもできることはたくさんあり、ワナワナとワクワクが止まりません。

自分の手を動かして生活を整え、アレンジする喜びは食にも及んできました。いままでは料理は苦手で、ちょっと面倒だと思ったら外で買ったり、食べたりしてすませばよいかと思っていたものでした。しかし、ちょっとした料理なら自分でもやってみようという気持ちになり、やってみると工夫したくなったりと、興味がわいてきたりしました。消費は一瞬ですが、自分でつくるとなると、楽しむ時間が増えて、喜びもひとしおなのですよね。

夢のようなリゾート地で数日過ごすよりも、磨かれた家で毎日を過ごしたい。星のついたディナーを気合入れていただくよりも、自分だけに合ったおいしさを気兼ねなく味わいたい。

手間をかけることに喜びを感じるようになると、面倒なことがやりがいに変わってきます。この変化は、いずれ仕事にも影響してくるように思います。いや、そうであるといいなあと思います。さまざまな思惑や事情が絡み、多くの人たちの知恵と技術を得ながらつくりあげるのが広告というもの。ときには、喜劇、いや前衛芸術か、と思うようなとんでもない状況の中、限られた時間で形にすることが求められる広告は、面倒臭いことの塊です。それを、やりがいの塊だと思えるようになると、こんなに幸せなことはありません。

いつまで続くかわからない丁寧な暮らしブーム。ブームで終わらせず、丁寧な人生になるほどに続けていきたいと思っています。

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