リレーコラムについて

ぼくらが旅に出る理由

照井晶博

生まれてはじめて男と旅に出た。
博報堂時代の同期で、
やかんを沸かす仕事をしているSと。

春。銀座でSと鮨を食べた。
その帰りのタクシーだったとSは言うのだが、
秋になったら京都でうまいもん食べよう
という話で盛り上がったらしい。

秋のある日に行こうと決めたのだが、
ぼくが撮影でダメになってリスケになった。
こんなふうに全てが流れてしまうのも
わりとよくある話だ。

でも、そうはならず、
ぼくは人生ではじめて
同性の人間とふたりで旅に出た。

金曜の夜。
共通の知人である
京都のバーの店主Tさんに
紹介していただいた割烹で集合。
尾形乾山の皿が、
美術館のガラスケースの向こうにあるような皿が
しれっと出てくるお店で食事して、
日常の地続きに魔界はあるのだと知る。

土曜はSに連れ回されることにした。
彼は京都に住んでたこともあるらしいし、
とにかく博識。雑学の量が半端ない。
朝9時に京都屈指のパン屋に集合。
軽く食べて、植物園へ。
プラティケリウムという巨大な白菜みたいな
植物はほんとに巨大な白菜みたいだなとか、
カカオは木の幹の表面に実をつけるのかとか、
食中植物はやっぱり入りたくなる
フォルムをしてるんだなとか、
アリストロキア サルバドレンシスという
植物の花はダースベイダーそっくりじゃないかとか、
ふだんの自分なら絶対に行かない場所で、
ふだんの自分なら知らないままだったことを浴びまくった。

ぼくは通常あまりよけいなことをしない。
予期してなかったことをして、
自分を驚かせたりは……あまりしていないと思う。
セレンディピティ、みたいなことでいうと、
本屋に行って買うつもりのなかった本を買うくらいだろう。

でも、それじゃよくないんだろうなぁ。
今回の旅でそう強く思った。

なにものかに振り回されたり、
自分とは違う価値観を押しつけられたり。
ときどき、そうやって、思考やら価値観やら、
自分をかたちづくるものを揺さぶってあげないと、
だめなのかもしれない。
いや、だめじゃないかもしれないけど、
自分をときどきちゃんとビックリさせてあげることは
やっぱり必要なのだと思う。

さ、つぎはどこ行こうかな。

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1週間ありがとうございました。
オザケンを聞きながらお別れです。

遠くから届く宇宙の光
街中でつづいていく暮らし
ぼくらの住むこの世界では旅に出る理由があり
誰もみな手を振ってはしばし別れる

来週は、
イモータンジョーに振り回される
ウォーボーイズのような日々を送っている
電通の岡野草平くんが書いてくれることになりました。
岡野くん、ほんとうにありがとう!!!!!

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