リレーコラムについて

北の国から

井村光明

今週担当させて頂きます、94年入会の井村光明と申します。一週間も書くことあるかなと心配していたのですが、いきなり心配すぎるスタートになってしまいました。普通先週のコラムの最後に次週予告的なご紹介があるはずだと思うのですが、日曜になっても何も無し。うーん、先週の山田さんどうしちゃったんだろう。コラムの最後を見ると、「日系企業クライアントの表現気質。それがいいか悪いのかどうなのか、う〜ん、ここで言うのは、やっぱりやめておきます。」と微妙な終わり方。何か秘密を握って、大きな力に消されそうだとのメッセージにも読み取れますし。ひょっとして、遂にどこかに拉致されちゃったのかなあ・・・。遂に、と書いたのには理由があります。心配だなぁ。
 山田さんとは宣伝会議の講座でご一緒したのが最初でした。第一印象は、僕の母親と同じ「恭子」という名前でさえなかったら、と思うほどのアニメ声で可愛らしいお嬢さん。でも山田さんには心配な素顔があるのです。それを知ったのは4年前、一緒に北朝鮮へ旅行に行った時のことでした。

 平壌空港に着き、当時まだご存命だった息子さんとお父様の肖像画に見下ろされながら、噂通り携帯電話を当局に預け、入国審査を済ませると、目の前にツカツカツカと北の人。日本語で「井村さんですね?こちらの車へ」。すぐに閉められるドア、どこへ行くのか車は走り出し、助手席から僕らを振り向いた女性が「ようこそ共和国へ」と意味不明な笑顔。緊張高まるファーストコンタクト、なのに、その時、「どこに連れてくんですか?」「喜び組はいるんですか?」「核兵器は持ってるんですか?」そして(厳密にはその後の会話中にですが)「それは、拉致とかしてるからですよ(笑)」と、いきなり、全て、山田さん。ひえ〜〜っ、スパイシーすぎる言葉を連発するアニメ声。黙れ山田!事件に巻き込まれた時は、なるべく犯人を刺激しないが鉄則だろう!と僕は必死にアイコンタクト、が、「犬を食べると聞きますが、猫も食べるんですか?」と続ける山田さん。シンクロ率400パーセント!つまり僕と全くシンクロしていない、なのに暴言の後の運命が一緒じゃたまらない。全て山田の私見であって僕とは一切関係ありません!と伝えるべく、ことさら沈黙を守る僕。が、北のガイドさんは怒るでもなく、「喜び組とは何ですか?それは応援団のことではないでしょうか」と、穏やかに、一つ一つの質問に丁寧に答えてくれたのでした。観光旅行だからそりゃそうか。事件は会議室で起こらないように、平壌でも起こらない。しかしこれから4日間、マンツーマンで3人のガイドさんと24時間一緒。スパイシーな山田さんの身に、何も起こらねばよいが。嫌な予感がしたのでした。

 翌日は38度線見学から始まりました。その帰り途、ドライブイン?で小休止の隙に、僕は一人車から降りてパチパチと写真を撮っていました。北の国は思いのほか自由で、軍人さん以外は何を写真に撮っても良い、と言われていたのです。ちなみに北の国には山田さんと二人っきり、ではありません。塚ちゃんという男子と3人旅行でした。僕が車に戻ると、車内に残ってた山田と塚ちゃんに妙な緊張感。話し辛そうな二人、なんだろう?ガイドさんと離れた時に聞いてみると、その時車内で、北のガイドさんがこう言っていたのです。「井村さん、写真たくさん撮ってますね。スパイ行為かな?」。スパイ行為!かな?!・・・ギャグだといいんですが、ちょっと気をつけた方がいいかもしれません、と二人。再び高まる緊張感。そしてその夜、平壌駅近くへ犬鍋を食べに出かけた時のこと。

 犬鍋に箸をつけない山田さん、それどころか涙目。山田さんは大の愛犬家だったのです。店を出てもなんとなく気まずい。僕と塚ちゃんは山田さんより先に歩いていきました。夜の平壌は街灯が少なく暗い街、送迎車へはさらに暗い地下道を通らねばなりません。山田さんにも北のガイドが付いているから心配ないはず、だったのですが・・・振り返ると、山田がいない。地下道から出てこない。僕らが早く歩きすぎたのか、それにしても遅い。立ちすくむ僕ら。そして1分か2分たった頃、僕らと一緒にいた北のガイドさんが、暗い街の中でニヤリと笑いながら、おもむろにこう言ったのです。「あれえ?山田さんいませんね・・・大変だ!拉致されてしまったのかもしれません。山田さん工作員にされてしまうのでしょうか」。もちろん先週のコラムを書いてることからお察しのように、その後すぐ地下道から元気に出てたわけですが。その時、僕と塚ちゃん、絶句。北のガイドさんの、渾身のギャグ、キレっキレ。生まれて初めて「冗談でもそういうこと言っちゃダメ!」と言いそうになったのですが、キレっキレな北の人のこと、もし返事が「いえいえ、冗談じゃないですから」と来たら・・・と思うと、ゾッとして言えませんでした。
 その時の記憶が、スパイシーな山田さんのこと、いつかどこかで本当に、このコラムの冒頭の「遂に、拉致されてはないか」と心配になってしまうのです。本当にリレーコラムのバトンどうしちゃったんだろう、山田さん。心配だなぁ。

 その時、もう一つ思ったことがありました。その後4日間一緒にいるにつれ、北のガイドさんの親切さ率直さが伝わってきます。「拉致」とか「スパイ行為」の言葉は、決して僕らを怖がらせようとして言ったのではなく、やはりギャグだったはず。結果は、かなりすべったわけですが(苦笑)。しかし少なくとも解ることは、日本人の僕らを含め、世界中から怖がられ、あるいは嫌われているということを百も承知で僕らと接していたということ。ガイドさんも想う所があったはずです。誰しも自分の生まれ育った国は好きという純粋な気持ちがある。でも一方で望む望まないに関わらず国家と運命を共にする。戦前戦中の日本人と話をしたとしたら、こんな感じかもしれない、と思ったのです。日本にいると、あの頃の日本は今の日本とは全く関係ない別の国のように思いがちです、そして北の国ならなおのこと。でも、その時生きてた人の感覚は今の僕たちとなんら変わることはない、当たり前のことですが、リアルに感じられたのでした。そして、芽生えたシンパシーのようなものが変な方向に向かうのですが・・・続きは明日。

 帰国して、北の国に行ったよ、と言うと、多くの方から行ったこと自体が不謹慎だとかなり激しいご意見を頂きまして、あまり話さないようにしていまいした。が、山田さんついでに思い出してしまったのと、特に書くことが見当たりそうにないので、一週間「北の国から」というタイトルで行ってみようと思います!不快に思われましたら申し訳ありません。政治的、思想的意図や個人的な事情など全く無い、ただの旅行記ということでご容赦下さい。でも、多分大丈夫。なにせ明日からは、まさかの恋話になっていくんです〜照れますが。

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