リレーコラムについて

2013.05.15

箭内道彦

余計なことばかりおぼえている。

幼稚園のときの弁当箱の図柄、
近所のお姉ちゃんの部屋にあった本の表紙、
昔の歌の歌詞は何百曲ぶんも。

有線から流れる懐メロを
次々に何も見ずに歌っていたら、
この前みんなとそんな話になった。

たとえばそれが、携帯電話やパソコンのメモリだって考えると、
そんなものにそんなにメモリ使っちゃったらもったいないじゃん、無駄だよ
っていうか、だから今のことちゃんとおぼえらんないんじゃないの?
余計なこと全部消しちゃえば、もっとたくさんおぼえられるのに
って。

でもその時ふと思った。
人は、人生の初期で早めに頭のメモリを一杯にしちゃって
いろんなことを考え過ぎないようにしてるんじゃないかな。
みんな、余計なことばかりおぼえているのは
そのための仕組みなんじゃないかなって。

今、頭が本当にフル回転して今のこと何でもおぼえていられたら
大人になってからつらいことばっかりで
でも若い頃の好きだった歌とか気持ちとかそういうことで
頭のほぼ9割くらいのメモリを先に使い終わっちゃってて
でもそれは消去しないっていうか、消そうと思っても消えなくて
残りの1割で今を暮らしてるから、
ちょうどいいんじゃないかなって。

だから人にとって
頭の中を今の出来事じゃないことで埋めとくって
すごく必要なことなんじゃないかなと思いました。

もちろん忘れたい昔もいっぱいある中で。

先日の撮影、
スチルカメラは今年64になる三浦憲治さん
モータードライブ高速連写に完全同期できる凄いストロボを用意してきた。
通常の数分の一の所要時間で撮影が終わる。
残された人生の、互いのその時間を本能が
大切にし合っているように僕には思えて胸がきゅんとした。

そういえば一度眠ると人間は、
せっかくおぼえたことを半分忘れるって話を昔どこかで聞いたことがあって、
学生時代の試験勉強は、全部午前3時に起きてやってたなあ。
同じ時間で倍、半分の時間で同じ量
おぼえることのできる効率をかんがえて。

でもそのときのめざまし時計の形も音も
やっぱりおぼえてる。
折りたたみ式の乳白色の時計に夜光塗料の緑の針。
これも余計なこと

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