リレーコラムについて

パンティー 後編

上田浩和

中1のぼくの背中を見送り、席に戻る。
ぼくは再び腕を組む。
「パンティー」と声に出してみようとするがやっぱりうまく言えない。
さっきとは違う方に首をひねってみる。
すこし離れた席では、ひとりの女性が、
ソファに身体を預けるようにして眠っている。
春らしい涼しげなふわふわとしたスカートから伸びた両足は、
外光を浴びてとてもきれいだ。
気になる気になる。
両膝の向こうに広がるトライアングル地帯が見たくてたまらない。
あ、寝返りうった。 おっと、足が少し開いた。
もし、寝返り「売った」だったら、
ぼくは喜んでお金を払うだろう。きっと寝返り買っただろう。
と思ったそのときだった。
女が突然カッと目を見開き、起きあがったのだ。かと思えば、
おもむろに自分の足下に置いていたかばんの中からボードを取り出し、
それをぼくに向けてくるではないか。
ぼくは焦った。まさか自分の熱視線がばれていたなんて思ってもいなかった。
だって女は、さっきまで確かに寝ていたのだ。

掲げられたボードには、ぼくの内側を見透かしたようにこう書いてある。
「次の寝返り、売ります。1000円で5度足開きます」
5度って、どういう意味だ。5回ってことか。
女がチッチッチッと人差し指を振る。
「そうじゃなくってえ、角度のことよ」
そうか、ということは3000円払えば、15度開いてもらえるってことか。
それだけ開いてもらえれば…。
ぼくは震える手でリュックの中の財布をまさぐりながら、 待てよ、と思う。
待てよ、もうすぐ夏がくるじゃないか。
そうすれば甲子園がはじまるじゃないか。
ぼくは知っている。わざわざ厳しい地方予選を勝ち抜かなくても、
電車に乗れば、けっこう楽して甲子園に行けるということを。
甲子園に行きさえすれば、
ここでお金なんか払わなくてもパンチララララブソングが聞こえてくる。
有楽町のビックカメラにデジタル一眼レフカメラでも買いに行くか。
ぼくは知っている。ビックポイントがけっこう貯まっているということも。
ワクワクしてきた。ドキドキも少し混じっている。
そして目指すはチラチラ。
パンチラの聖地アルプススタンドでは、
この夏も、ベンチが空よりも青いはずだ。

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