リレーコラムについて

男は静かに激しくじゃ。

川名宏昌

あれは高校時代。
ラグビー部だった自分が
試合中に言われて衝撃を受けた言葉。

「気合い入れるぞ!」「絶対抜かれんなよ」と声をかけあう僕らに
グラウンドの脇から花園請負人と呼ばれた熱血先生が
カンカンに怒って叫びました。

「男は声を出すな。静かに激しくじゃ!」

はぁ?
みんな「ハイ」って答えたものの、内心、
なんじゃそれ?
先生、エロくね?
わざとっすか?
しかし、何故わざと?
その瞬間、チーム全体に走った激しい困惑と動揺は今でも語り草です。
でも。
それ以来、僕らのチームは県内でいちばん静かなチームになりました。
そして、なかなか強いチームになりました。
声をかけなくても通じ合う、そういうレベルでプレーするぞ!
っていうのが、なんか、自分たちのプライドみたいなものになったんですね。
さすが、先生。

もうひとつ。

あれは昨年の秋。
交通事故を起こしてしまった自分の気持ちを、
すこしラクにしてくれた言葉。

幸い誰のことも傷つけずに済んだのですが、
クルマは大破して廃車。車両保険かけてないし、参ったなぁ・・・
という時に、その晩飲む予定だったその人は、

 「川名さん、守られてる感じですね」

と言いました。
だって、そんな物凄い事故をさっき起こしたっていうのに、
こうして無事でフツーに話せてるんですよ、と。
キザだなぁ、
出たな、このイケメン中年独身サッカージャーナリストめっ!
と、普段なら思いそうなところが、
その時は不思議なくらいスーッと気が楽になったんです。
本当に、まるでクスリが効いて痛みがとれてくみたいな感じで。
あれは、ちょっとした言葉体験だったなぁ。
気休めでしかない、とかよく言いますが、
瞬間でも本当に気が休まるなら、気休めにも意味があるんだなって、
今は思います。

最後に。

もう何年か前。
ある上司に言われて
進む方向がパッと開けた言葉。

 「人の心にカチンとスイッチが入るような言葉を、
  川名は書いたらいいんじゃないの?」

人の心のひだを洗うような仕事は他人に任せてさ、
川名は、なんちゅーの、接触不良を起こしてるとことか、
新しく配線すると面白くなりそうなとこにスイッチをつくって、
なんちゅーの、カチンと入れるっていうかさ、と。
判断もディレクションも豪快かつ直感的、
いつもその発言の意味を探り当てるとこから仕事が始まるという、
なんとも面倒くさい上司が言ってくれた言葉なんですが、
それこそ当時の自分の心には、カチンとスイッチが入ってしまった。
あ、俺はそっちだったんだ、と。
考えてみれば、それからはずっと、
そのスイッチなるものを探したり、つくったりしようと
日々精進している気がします。

言葉ひとつで、人の気持ちは奮い立つし、慰めらるし、前に向かうわけで。
そのことを一人でも多くの人に嬉しいと思ってもらえる、
そんな仕事がしてゆきたいものです。
と。
ん?
まとまった?

さて。
せっかく担当させてもらったコラム。
滞らせてしまい、お恥ずかしいかぎりです。
まるでいいパパみたいなコラムも書きましたが、
今週は仕事でふた晩も家に帰れず、家族にも迷惑かけました。
でも、4回しか書けませんでしたが、
こんな機会でもなければ振り返らないような言葉体験を
好きに文章にすることができて楽しかったなぁ。
読んでいただいた皆さん、声をかけてくださった皆さん、
ありがとうございました。
今後ともどうぞよろしくお願いします。

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