リレーコラムについて

夏のカイブツ

中川真仁

あなたは、モンスター冷麺をご存知だろうか?
数年前の夏、餃子の王将で遭遇した
屈強かつ、冷酷な(冷麺だからね)モンスターである。

このモンスター冷麺を倒すために、
立ち上がった一人の男がいた。名はミクラ。
29歳、独身。10年来の友人である。
170cmで体重は50kg台をたたき出す、小柄な男である。

私は何度も確認した。本当にやるのか?と。
おそらく好きな女の前というのもあっただろう。
多くは語らなかったが、オレがやらなきゃという使命感が
彼にはあったはずだ。でなきゃ、こんな怖いことできない。

一つ確かなことは、
むちゃくちゃ腹がすいていた訳ではないということ。
だって僕たち、さっきまでBBQしてましたから。

戦いのルールは簡単。
15分以内に、完食すればモンスター冷麺代1200円は頂きません。
というシンプルなものである。
 
モンスター冷麺の情報は、麺が4玉、
器の半分弱をもやしと大きな大きな卵焼きで占めるという
人間の想像力をはるかに超えた一品である。
顔が入るくらいの器にそれはレイアウトされていた。

開始5分。
食べても食べても減らない。この時、挑戦者から
最期の言葉になってもおかしくない発言が出る。

「もやしが多すぎる」

開始8分。
少し減ったかな。でも手強い。卵焼きの大きさが
尋常ではない。しかも横で見ているかぎり、
美味しそうではない。そしてひと言。

「もやしが多すぎる」

開始12分。
店員が見に来る。もうほとんど敵の主力である
麺、卵焼き、もやしは倒している。が、
気を緩めてはいけない。スープが残っている。

開始14分。
モンスター冷麺は、もはや壊滅状態。
戦士はもう、ネギの処理にとりかかっていた。

終了。
店員の置いていったストップウォッチが鳴る。
判定は?

店員「いいでしょう。成立です。」

完食である。拍手である。勝者である。
餃子の王将が送り込んだモンスターに
見事打ち勝ったのだ。正直、かっこ良かった。
女の子が「私、たくさん食べる人が好き」なんて言うが、
その気持ちがちょっとわかった気がした。
(最初の方のデートで、こんなに食ったら引くけどね。)

僕は、彼の腕を持ち、高々と持ち上げた。
歓喜の瞬間。後ろのおっさんも拍手。

船で世界一周して帰って来た人が、「まずお風呂に入りたいです」
というコメントをよく言うが、
この冷酷なモンスターをたった15分で食べたミクラはこう言った。

「ギョーザちょうだい。」

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