リレーコラムについて

身勝手について 2

中山佐知子

猫ほど身勝手な動物はいないとよく聞くけれど
観察するとそれは身勝手ではない。
猫は猫の主義で生きているだけだ。

猫はゲロを吐く。
たとえば腹を減らして早食いをする。
カッカッカッと食べるそばからケッケッケと吐く声がする。
食べる場所と吐く場所が同じというのは
飼い主にとってうれしくない。
熱いものを食べても吐く。背中が痒くても吐く。
トイレで吐いてくれ。
そんな言葉は聞く耳を持たない。

吐き気に余裕があるときは、猫としては縄張りを汚したくない。
とんでもない隅っこで吐く。
大掃除のときにゲロの化石を発見することになる。
せめて目立つところで吐いてくれ。
やはり聞く耳を持たない。
しかし、これは身勝手ではなく
猫は猫の主義で生きている結果だ。
つまり「ゲロは掃除しなくていいよ」という主義だ。
私もそうありたい、自分でゲロ掃除をしてくれ。

うちの茶虎の猫は奇妙に賢いところがあって
寝る間際に窓をパトロールしてまわる。
飼い主を守ろうとする意欲のあらわれである。
そして大声で飼い主を呼ぶ。
「にゃお〜、怪しい猫がいます」
猫でいちいち呼ばんでくれ。

猫は自分の家庭内の地位を上から二番めに設定する。
うちは女帝の絶対君主制をしいているので
私の地位は揺るがない。
賢猫の茶虎の立場からすると、二番めが茶虎だ。
その後に仮想の士農工商や杉田や遠山や保井がつづき、
我が家のもうひとりの住人がその次、もう一匹の猫が最後にくる。
茶虎はその身分制に従っているので
私以外の住人が帰宅しても出迎えに行かない。
たまに「行っときましょか」という顔で私を見るが
行かなくていいよと言うとまた寝てしまう。

これらはちっとも身勝手ではない。
猫は自分の主義で生きているに過ぎない。

NO
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