リレーコラムについて

エガミの幻の食卓 その四

江上隆夫

その魚は、俺たちが樹上に秘密基地を設けていた
港の突堤のそばにある磯でよく見た。

全長10cm。百数十匹前後の群れが
キラキラ太陽光を反射させながら
子供のふとももほどの汐だまりを泳いでいく。

「ざあまにおっぞ」「獲ろごちゃっなぁ・・」

タモ網もなにも持ってないと地団駄を踏んでくやしがるしかない。
旨そうな大集団はゆうゆうと鼻先の海を泳いでいく。
だれかが群れに向かって石を投げる、一瞬乱れるが、
またすぐに何事もないように泳ぎだす。

目の細かい網で漁師が獲った「キビナゴ」は
刺身、干物という食べ方が普通だ。

その日はなぜそうした食べ方をしたのか記憶にないのだが
湯引きで食べた。つまり、しゃぶしゃぶ。

で、この湯引き、それ以降食べたことがない。

そういう料理があるのか、
そのとき一瞬の我が家の思いつきだったのか。
不明である。

平たい背の低い鍋を用意する。
昆布だしは引いてあるのかどうか、記憶に定かでない。
カセットコンロなんかない時代。
電気コンロで、ただ湯を沸かす。

大皿に盛られた刺身のきびなご。
新鮮なものは本当に肌の銀がきれいなんだよな。
数尾をはしですくい、湯にさっとくぐらせる。
身の表面が白く変わったところで上げて、皿の酢醤油に。
好みで一味を入れておいてもよい。
親父や祖父は鷹の爪を皿の中へ入れている。

鰯科特有の味だが、上品な、あさっりした、美味さ。
煮魚の部分と刺身のレアな部分が混じっていて。
モグっと、トロっと。大皿の刺身はまたたく間に消えていった。

酒好きな祖父の発案だったのかな。

どうなんだろう。

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