リレーコラムについて

恐れていた年末年始が来る前に

井口雄大

いろんなことを一旦保留にして生きている。と思う。

考える時間や準備の時間がほしいからではなく、
そのことと向き合うのが億劫だから。或いは、怖いから。
他の何かと向き合うことで、別の何かと向き合うことを回避している。
もっと早くから手を付けなければいけないと分かっていたはずなのに、
急に締切が来たかのように驚き、その場のえいやで対処する。
ああ、もっと早くから何かやっておけば良かったと毎回思う。

父のことも、そのひとつだ。

 

父が癌になったのは、5年前のこと。
このコラムを書き始めて、
それがどこの癌だったのかもよく分かっていなかった自分に驚く。
いま、家族のLINEを遡る。肺癌だった。たぶん。
最初に診てくれた医師の診断は「肺癌の疑い」という曖昧なものだったが、
気づいたら肺癌であることを前提とした治療がはじまっていた。
本人や家族がパニックにならないように、
医師は告知のソフトランディングを考えたのだろうか。
余命がどれくらいなのかも、最後まではっきりとは言わなかった。

いま振り返ると、そんな医師の曖昧さに母親とあーだこーだ言いながら、
これ幸いと思っていた節さえある。
70を超えたら、癌はそんなに進行しないものかと思っていたけれど、
もう少し調べれば、そうではないとわかったはずだ。
やがて癌はいろんなところに転移していった。
症状に応じて治療方針が定まり、通院で済んでるうちは元気だったけれど、
薬が変わる、入退院する、といった変化がある度に、
段階的に弱っていったように思う。

ここで「思う」と書いてしまう自分が申し訳ない。
父親が癌になった、という息子としてこれ以上ない事件と
自分がしっかり向き合わないうちに
父は息を引き取ったのだと、いま、ここまで書いてようやく知る。

内山さんから新人賞受賞の連絡をもらったのは、その3日後だった。

 

 

父が死んだ翌日から仕事し、内山さんの受賞に喜び、
その死とがっつり向き合うことを一旦保留したものの、
さすがに今度の年末年始には向き合わざるを得ない、、、嫌だなあ。
と思っていたところバトンが回ってきた、博報堂の井口です。

これも何かの縁だと思うので、
内山節全開の眩しいほどのコラムから打って変わって、
今週はこんな感じではじまります。

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