リレーコラムについて

中尾茉美

湯治健富

中尾は、新卒4年目です。
電通九州では、十数年ぶりにコピー系の新卒クリエーティブとして配属されました。
と言っても、彼女が最初からクリエーティブを志望してたかというと、
全然そうではありません。
そもそもクリエーティブがなんのことかもわからないまま
東京の研修で受けたCMの課題で、ベスト10の中に2つも入ってたらしく、
それがきっかけで配属されたという経歴があります。

 

 

そう、逸材です。

 

 

そんな彼女のメンターに指名されたのが僕なんですが、
最初は、全力で断りました。
そりゃそうでしょう。“逸材”の指導をするのが、“凡人”なわけです。
万が一、彼女が大成しなかった場合、指導が悪かったとなるのは目に見えてます。

「自分の面倒もみれない人間が、他人の面倒をみれるわけがない!」

「湯治の企画の真髄は、下ネタだ。うちの会社は、湯治の翼をもぐ気か!」

「米村がいるじゃないか。北川さんがいるじゃないか。なんなら左さんでもいい!」

わりと錯乱気味に断ろうとしてたので
かなり失礼なことを言ったかもしれませんが、覚えていません。
そんな抵抗も無駄に終わり、無事に“凡人メンターの誕生です。
さて、どうしたものか。天を仰いだことは、はっきりと覚えています。

 

いきなりクリエーティブとして配属された中尾は、
当たり前でしょうが、かなり不安そうに見えました。
まわりは私服に身を包んで、仕事してるのか遊んでるのかわからない連中です。
そして不幸にも、メンターは僕です。
デスクに足をのっけて企画する北川さんほどではないですが、
企画が出ないので、いつも不機嫌そうに見えます(見えるだけです)。

ただ、幸いにも、隣はイケメンの米村でした。

僕が出退勤の打刻について、
「毎日やろうとすると忘れるから、月の初めに全部打ち込んだらいいよ」と説明したとき、
真面目な中尾は、戸惑いの表情をうかべました。
そんなとき、すかさず米村に「湯治さん、最初から裏技はダメですよ」と
イケメンスマイルで叱られました。

思えば、あの瞬間に、中尾から僕への敬意が消えた気がします。

 

 

たしか、配属初日だったはずですが。

 

 

仕事については、もともとがクリエーティブを志望しておらず、
コピーライター養成講座やクリエーティブ塾にも通ったことがなかったので、
完全にゼロベースからのスタートです。
そこで、最初の数ヶ月間は、毎日TCC年鑑を読んで、
いいと思ったコピーを選び、その理由を書くという課題を出してました。
クリエーティブのことを何も知らないからこそ、
上質なコピーやCMをいっぱい浴びて、自分なりに考える。
やたらと企画をさせて変な癖がつくよりも、純度の高い思考が身につくのではないか。
なんて考え抜かれた課題だ。俺にも“逸材”が移ったか!
そんな計算でスタートした課題でしたが、
すぐにその洗礼を浴びました。僕が。

課題を出すということは、なんらかの批評をしなければなりません。
つまり、中尾が考えに考えた答えを、
こちらもちゃんと考えて答えるということです。
これは絶対に適当にできません。
出退勤の裏技伝授で、地に落ちた先輩への敬意を復活するチャンスです。
でも、もう1つ盲点がありました。彼女は“逸材”です。
選んでくるコピーが、秋山晶さん、児島令子さん、仲畑貴志さん、佐藤澄子さんなど、
そうそうたるレジェンドのコピーばかり。
この子は本当にクリエーティブに興味がなかったのかと疑いたくなる“選球眼”です。
コピーは書くより選ぶ方がむずかしいといいますが、
あのTCC年鑑の大量の名作から、よくぞこれを選んだなというコピーを選んできます。
しかも、選んだ理由もかなり的確な思考で、
思わず「勉強になりました!」と言いたくなるレベル。
マズい。これは、かなりマズい。地に落ちた敬意が、さらに地中深くに突き刺さりそうです。
僕は、平静を装いながら、「秋山さんの着眼点は…」「仲畑さんが考えてるのは…」と
全身全霊でレジェンドのコピーを解釈していました。
おそらく、当時は一日で一番、PCの前で固まっていた時間だったと思います。
もはや鍛えられたのが、どっちかはわかりません。

 

 

そうやってクリエーティブの仕事を少しずつ覚えながら、
今では一人で仕事をすることも増えてきたようです。
競合に勝ったり、他の営業からも評価されたりして、彼女なりのペースで成長してます。
さすがに定着力とか実現力なんかはまだ発展途上なので
コピーやCMの仕上がりはこれからな感じですが、
それでも彼女の着眼点や切り口はいいなと思えるものはあります。
いっしょに仕事をしている北川さんや左さんも、同じ印象みたいです。
ちなみに、少し前にいっしょに仕事をした霧島酒造の「茜霧島」CMは、
企画もコピーも中尾のものです。

 

https://www.youtube.com/watch?v=WmgDblFhcm4
https://www.youtube.com/watch?v=H-oECIjnJh0
https://www.youtube.com/watch?v=7pDHqOIp8mI
https://www.youtube.com/watch?v=TYMNc4K6pA4

 

この仕事は、東京電通の門田陽さんとも協働しているので、
コピーはかなり厳しく見てくれて、何回も書き直しをさせてましたが、
門田さんが「これはいい」「この言葉は悪くない」と褒めていました。
いいなぁ、中尾は。
僕はコピーライター養成講座時代にそれこそ門田さんが講師でしたが
「下手なコピーを見ると、こっちも下手になりそうなんだよね」と
笑いながら言われたことしかありません。

このままいくと、そう遠くないうちに、中尾が上司になる日が来そうです。
もはや僕への敬意なんて地面に埋まりすぎて、
おそらくブラジルまで到達しているような気がします。
たぶん、中尾が上司になって、僕への最初の指示はこれですかね。

 

 

「湯治さん、ブラジル出向って興味ありますか?」

NO
年月日
名前
5690 2024.04.17 長谷川輝波 言葉オブザイヤー@新宿ゴールデン街
5689 2024.04.12 三島邦彦
5688 2024.04.11 三島邦彦 最近買った古い本
5687 2024.04.10 三島邦彦 「糸井重里と仲畑貴志のコピー展」のこと
5686 2024.04.09 三島邦彦 直史さんのこと
  • 年  月から   年  月まで