リレーコラムについて

ちょうどあの高さ。

井手康喬

先週の中川くんからバトンを受け取りました!
2018TCC新人賞をいただいた、井手康喬と申します。
(中川くんありがとう!)

せっかくなので、
最初の投稿は新人賞の事例について
お話させていただこうかと思います。

広告が掲出されたのは、
つい先日ソニーパークとしてデビューした、元・ソニービルです。
銀座の数寄屋橋の交差点にありました。

そのビルの大きな壁面に、
キャッチも、おさえのコピーもない、
広告なのか何なのかよくわからない
長ったらしい文章が簡素なフォントで書いてある。

なんだなんだ、と思って読んでいくと、
そこには記憶に恐ろしい2011年の津波の話が書いてあり、
当時、大船渡市にやってきた津波の最高到達点16.7m、
「ちょうどその高さ」に、真っ赤な線がひいてあるんです。

えっ、何この文章、怖い。
怖くない?津波の高さって。
せっかく6年たって、
やっとあの恐怖を忘れかけていたのに。

そんなふうに、企画が通ったときは、
もしかしたらコレ世の中に不快な思いをする人がたくさんいて、
炎上とかしちゃってSNSでボコボコにされるんじゃないかと、
とても心配してしまったんです。

なので、ソニービルの媒体が確保できたみたいよ、と
CDの橋田さんから連絡あったときに、
もう終電はなかったのですが、
すぐにタクシー飛ばして見上げにいきました。

実際に現場で「ちょうどそのくらいの高さ」を見上げてみると、
とても高い。これは怖くなっちゃうかもしれない…
でも、ちょっとくらい怖くないとインパクトない…
ちょうどいい塩梅の怖さの文章を書かないと、
この広告が届けようとしているメッセージが届かない、
と思ったんです。

というわけで、それから3回くらい現場に通いまして、
当時「It’s a SONY展」の告知が広告として出ていたと記憶してますが、
その看板の中心あたりをじっと見つめながら、
数寄屋橋の真ん中でノートにコピーを書きまくりました。

入稿まで一週間ほどしかなかったのですが、
ほぼ毎日、社内やヤフーのみなさんと
いくつもの文章パターンを書いて、書き直して、
合成して試して、を繰り返し、やっと2つまで絞れました。

最後の最後まで争った、次点の候補コピーを貼っておきます。

冒頭が、もう相当カジュアルですよね。
これは掲出された案よりも柔らかくて、最後に押さえコピーもあって、
すぐに広告だとわかるようにしていたバージョンです。
テーマがテーマだけに、最後まで強気で行くのが
みんな怖かったんだと思います。

そして、
無事にソニービルに原稿が掲出されて数日後、
大船渡市の僧侶の方が、
僕のFacebookを探し出してメッセージをくれました。

「伝えて下さって心より御礼申し上げます。
 6年という年月で私も失ってしまった感情を
 しっかりと噛み締めさせて頂きました。
 本当に有難うございます。」

一生懸命やって本当によかった。
あんなにほしかったTCC新人賞をとれたときより、
正直、このときのほうがうれしかったです。スイマセン。

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