リレーコラムについて

「PPMなめんな」事件

佐藤舞葉

コピーの面白さや、CMの点数のあげ方を教えてくれる先輩は多かった。

しかし、「どうやったら早く帰れるのか」「どうやったら再プレを逃れることができるのか」

など、段取りや仕事術を教えてくれる先輩はほとんどいなかった。

多くの人がそこに興味がなかったか、

効率よく仕事を進めることが、ある種「おりてる」行為だと思われていたからだと思う。

 

 

A先輩は例外だった。「とにかく1秒でも早く打ち合わせを終わらせること」を信条としており、そのためにできることはなんでもした。

 

どんくさい私は、A先輩に大変よく怒られた。

しかし、クリエーティブ人生を振り返ってみて、思い出すのは優しい先輩のあたたかい一言でもなく、天才的に面白い先輩のぐっとくる一言でもなく、その人から言われたことだったりする。

 

このコラムでは、その先輩に言われた忘れられない一言を紹介していく。

 

***********

 

 

 

「PPMなめんな」

 

PPMというのは知っていますか。

PPM=Pre Production Meeting

の略で、撮影前に、美術や衣装、撮影香盤などの最終確認をクライアントと行う場のことをいいます。

私がA先輩と当時ある商材を担当していたときのこと、スタイリストの事情により、衣装がPPMまでに間に合わないことがありました。営業に確認したところ「それはしょうがないね、後日ということでクライアントにも説明しておくね」と話がまとまりました。

PPMの前日には資料を全展開し、私は布団に入りました。

ところが…

深い眠りについたころ、鬼電がかかってきました。

A先輩からです。

「なんで衣装がそろってないんだよ!」

「あー、それはですね。なんたらこうたらで…」

私はすらすらと事の顛末を説明しました。

 

「PPMなめんなよ」

えっ。

「PPMってのはな、全部決める場所なんだよ。PPMの次はないんだよ」

めっちゃ怒られました。

「いいから俺がなんとかする。ガチャ」

ツーツーツー。

 

正直私は不服でした。だって営業はそれでいいって言ったのに。そこまで怒られること?

 

ところが、その考えは浅はかだったと気づきました。

次の日、PPMに現れたA先輩は、ないはずの衣装をもってきました。

なんと午前中に自分の足でデパートに行き、プロデューサーと服を買い、

PPMのその場で現物を見せてその場でクライアントに決めさせたのでした。

 

「PPMに次はねーんだよ。PPMで全部決めるんだよ。PPMなめんなよ」

 

これが矜持として今でも私の心に残っています。

 

PPMの前には、撮影を具体的にイメージし、何かほころびはないか、忘れていることはないか、念入りにチェックする。

PPMで宿題を残さない。(もちろんできないときもあります)

PPMに間に合わない場合でも、できる限りのことは全てする。

 

もしあのとき怒られなかったら、今でもゆるくPPMをやってしまってたかもしれません。

 

以上、「PPMなめんな」事件でした。

 

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