リレーコラムについて

6月某日実家にて

井口雄大

話を3日前に戻すと、その朝、母から連絡があった。
昨日実家に行ったばかりなのに、いつもはLINEなのに、電話。
血圧が下がっているから、家族を呼んだ方がいい
と看護師に言われたという。
実家に帰ると、父はもう息をするのも精一杯で、会話もできない状態だった。

誰が周りにいるのかも分かっていなかったと思う。
ずっと呼吸は荒く、その状態がずっと続いていたので、
この状態が何日か続くのかと思っていたら、
夕方になってその間隔がどんどん開いていった。
指に血中酸素を測る装置を嵌めても、反応が出なくなった。
呼吸する間隔がどんどん開いていく。
誰かの死に立ち会うのは初めてだけど、
もうだめなんだなと直感でわかる。

入院中、お見舞いに行ったら、歩けなくなっていた。
1週間前に退院したら、ほとんど食べられなくなっていた。
前日は、話すこともほぼできなくなり、
そして最後は、息も吸うこともできなくなり、文字通り、息絶えた。

息絶える、というのは表現ではなく、
その様子をそのまま言葉にしたものだと初めて知る。
弱った虫が最後動かなくなるのと同じで、
でも人間だけがこうして見守られながら死ねるんだと思った。
今思えば、そういうことを考えることで、
目の前の死から距離を取ろうとしていたのかもしれない。

その後、医師と看護師が来て、死亡を確認し、必要な処置をした。
1週間ほぼ何も食べていないので、
胃の中はからっぽで、ほぼ何も出ない状態だったと言われた。
いま思えば、必死に退院して家に帰ってきたんだと思う。
食欲はほぼなかったはずなのに、病院では無理やり食べ、
退院の権利を勝ち取ったじゃないかと思う。
帰りたかった家に帰り、そこで綺麗に死んでいった。
なかなかやるなあ、と思う。
そういえば、昔から意志の強い人だった。

その日、僕に初めてメールをくれた川上さんは、
自ら志願して、いま、僕のそばでコピーを書いている。
面識のない人にコンタクトを取るには、それなりの勇気がいるだろう。
そしてその勇気はいつも意志からうまれるものだから、
大事だなあ、意志。とこれを書いて改めて思う。

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