リレーコラムについて

辻中アウト。辻中イン(前編)

和久田昌裕

「わくちゃん、うちの弟にあってやってくんない?」

マカオの悲劇から1年以上が経った。世の中はその間コロナに振り回され、緊急事態宣言→規制が緩んでまた規制を繰り返し、僕たちもリモートで顔を合わせるのが当たり前になった頃、時短営業ながら久々のスゴロクでハイボールを飲んでいるときのことだったと思う。

「うちの弟に、九州楽しい楽しいって言いすぎたら、自分も来たいって」

てるてるに歳の離れた弟がいるのは聞いていた。そして関西で学生をしていて、現在就職活動中だということも。兄のあまりに楽しそうな九州での出向生活を聞いているうちに、自分も九州に行ってみたくなり、うちの会社を受けようとしているらしい。あのな、いくらなんでも兄が楽しそうだから自分もそううまくいくと思うなよ。自分ならなんとかなると思い込み過ぎている、辻中家の悪い癖だ。兄が楽しそう?そりゃそうだろう、だいたいてるてるだって、、、

「だって、、、九州来るなら、わくちゃんと会わんわけにはいかんし」「俺でよければ」

やはり、こいつにはかなわない。

そしてこれが、3人目の辻中家との出会いだった。

実はてるてるの、辻中家とは浅からぬ縁がある。TCC会員の方はご存じの方も多いと思うが、てるてるはお父さんもCMプランナー。てるてるの過去のコラムにも登場した「ゴキブリのお父さん」こと辻中達也さんである。そして僕がTCCに入会した2005年。その年の年鑑のADこそが辻中達也さんだった。

この世界に入って若干二年目で、初めて行った青山のクラブハウスでの年鑑用の写真撮影。ネットで調べた青山のカリスマ美容師に髪を切ってもらい(今考えるとクソほどダサい)緊張しながらクラブハウスへ向かった。それもそのはず、辻中達也さんと言えば広告界のレジェンド。達也さんもコメントを寄せている「堀井博次グループ全仕事」は今でもバイブルだし、会社の新入社員研修以外でそういう人に会うのも初めてだった。そして向かった先にはまぎれもなくレジェンド、、、ではなく普通のニコニコ笑うおじさんがいた。

「笑ってやー、ほな撮るでー」

辻中さんとはそのあとも、関西での研修やOCCの集まりなどでお会いすることがあったが、まさかそのご子息てるてると同僚になるとも思わなかったし、ましてやその8歳下の弟もなんて。

後日、スゴロクでてるてると待ち合わせをしたら、てるてるが二人いた。そう思うくらい二人は似ていた。彼の名は辻中基康。通称”もっくん”

似非菅田将暉の名を欲しいままにする童顔のてるてるに対し、昭和風イケメンのもっくんは、8歳離れた兄弟というより双子に見えた。

「わくちゃん、俺別の飲み会あるから、あとよろしく」

ハイボール一杯だけ飲んで、颯爽といなくなるてるてる。相変わらずだ。さすがに初対面で緊張しているもっくんと二人でどうすんねん、と思いきや初対面であるはずの僕への距離の詰め方は辻中家のまさにそれであった。

「わくさん、明日何してます?兄は仕事だって言うんですけど僕ヒマで」

「鰻でも食うか」

まるで普段から、ランチで鰻を食べることなんてなんでもないことだぜ。これが大人ってやつだぜ。ってのを見せつけるように。翌日連れて行ったのはタモリさんも愛する名店、吉塚うなぎ。遠慮なくうな重の松を頼むもっくんに対し、おじさんはもう食が細いからと言い訳しつつ梅を頼む。そして白焼きと日本酒。もっくん、これが大人ってやつだぜ。

「確かにこれも美味しいけど、ウナギはやっぱ、かば焼きっすね!」

たぶん、こいつはうちの会社に受かるんだろうな。その時ふと、そう思った。

それから数か月経った。僕はもっくんの運転するレンタカーの助手席で、缶チューハイを飲んでいた。きっかけは、僕の読み通り見事に電通九州の内定を勝ち取ったもっくんが御礼を言いに福岡へ来た、そのときだった。

「わくさん、夏休み何してます?兄は仕事だって言うんですけど僕ヒマで」

「九州一周でもするか」

まるで普段から、九州一周なんてなんでもないこと、、、んなこたない。ただ、ご存じの通りただでさえコロナ禍で外出もできていない。就職活動も大半がリモート。そして関西生まれ関西育ちで九州の土地勘もない、そんなもっくんが九州を一周して何を感じるんだろう。それ以上に、この続いたコロナ禍で行けてない場所、会えていない人が僕にもたくさんいた。

「もっくん、車運転できる?」

「ペーパーですけど」「充分」

こうして20歳離れた僕らは、九州一周1200キロの旅に出た。

 

長くなりすぎたので、後半へ続く。

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