リレーコラムについて

軽さという神様への誓い

古屋彰一

山登りをする人の一部に、

装備をどれだけ軽くできるかということに必要以上に情熱を傾ける、

おかしな人たちがいます。

一般的な登山では、山での安全性や快適性を守るため

時には15キロ近くになる装備をリュックサックに詰め込んで山を登ったりするのですが、

そっちの世界では、軽さこそが絶対的な正義。

命を守れるギリギリのところまで装備を減らし、

身軽になった分、より奥深くまで山に入ることができることに

この上ない喜びを感じる、特殊な宗教観の持ち主たちです。

中にはテントや寝袋すら持たず、一般的には寝袋のカバーとして使われるものを

寝袋とテントのかわりにして夜を明かすという原理主義者もいます。

いつの間にか、僕もその宗教に傾倒しつつありまして、

今年、入門の証として特別な神器による洗礼を受けました。

それは、エバニューというメーカーの「FPマット」という商品

テントで寝る時に、敷布団の役割をはたすマットです。

一般的に登山で使われるマットは、

500gから1000gの重さがあるのですが

これは、わずか160g

もちろん大きなご利益には、それなりの代償が必要でして

代わりに差し出さなければいけないのは、心地良い眠りです。

厚さはわずか5mmの硬い素材でできており、それはもう敷布団と例えるべきものではなく

「畳」と表現する方が適切な、「なんとか眠りにつけるかな?」というレベルの寝心地なのです。

しかも、カバーできているのは肩からお尻までという本当に最低限の面積だけ。

信心の薄い僕は、寝返りを打つごとに悪魔のささやきに心を惑わされることになります。

「あれ?ここまでして軽さを選ばなければいけないんだっけ?」

「いやいや、軽さに勝る快適はいないだろう」

「あれ?ぐっすり寝れる方が、翌日元気に動き回れるんじゃない?」

「バカを言うな、本当に疲れたら人はどこだって寝れるさ」

長い戦いの末、テントに暖かい光が差し込んできます。

神を信じ抜いた信仰心への祝福でしょうか。

その日の山行で、厳しい峰々に打ち勝つごとに、

軽さからのご利益を全身で感じ、感謝することになります。

そして、僕はこう誓うのでした。

「次は、もっと軽くします。」

そんな、おかしな世界の話でした。

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