リレーコラムについて

謎利き

高橋尚睦

じぶんの利き手がわからない。

そんな人はどれくらい世の中にいるのだろうか?
かくいう私が、そのひとりだ。

モノによって利き手が替わるのである。

例を挙げると、

箸:左
ペン:右
投げる:右
包丁:左
栓抜き:左
バット:右
歯磨き:左

といった具合だ。

「両利きじゃん」と言ってくれる人もいるのだが、
そんなすばらしいものではまったくない。
箸は右で持てないし、文字は左で書けないのである。

ほんとうは何利きなのだろう?

その答えを知ったのは、30歳を過ぎてからだった。
こういうふうに、モノによって使う手が替わることを

「クロスドミナンス」

というらしい。

「左利きなんですか?」
「いえ、クロスドミナンスです」

……必殺技のような仰々しいネーミングは、
人に言うにはなんともこっ恥ずかしい響きである。

このクロスドミナンス、
器用なように見られがちだが、まったく逆で
実生活ではなかなかに不便なのだ。

まず、動作の半分は左利きなので、
左利きの人の苦労はたいがい経験する。

駅の自動改札は右利き用につくられているし、
自販機のコイン投入口も右利き用だ。
エレベーターのボタンも多くは右側についている。

中でも、左手使いにとってラスボスともいうべき存在がいる。

「おたま」である。

ファミレスのスープバーなどに置いてある、
片側に注ぎ口のあるタイプのおたま。
右利きにとってはさぞ使いやすいのだろう。
しかしあれを左手で扱うとどうなるか。

「護身術」を思い浮かべてほしい。

暴漢に襲われたときに、手首をひねるというあれだ。
あの技を“かけられた側”のようにひねらないと
われわれ左手使いはスープにありつけないのだ。
いつも鍋の前で護身術よろしく“格闘”することになる。

世の中が右利き用にできていることを
もっとも強く感じる瞬間が「おたま」なのである。

クロスドミナンスならではの目線でいうと、
「左右どっちを使ってもしっくりこない道具」
というものが存在する。

大学時代、ケンタッキーでバイトしていたのだが、
揚がったチキンをつかむ「トング」が悩ましかった。
左手のほうがチキンをやさしくつかめるのだが、
どうにも手が疲れやすい。
そこで右手に持ち替えると、
軽い力でスピーディーにつかめるのである!

やはりこっち利きか?と思うのだが、
左に比べると力が入りやすく、
チキンの皮が剥がれやすくなってしまう。

結局、3年ほど在籍したのだが、
「ケンタのトング」は
最後まで利き手が定まらなかった。

こんなふうに、クロスドミナンスは、
人知れず苦労することが多い。

それでも、クロスドミナンスでよかったと思える
シチュエーションが3つだけある。

ひとつが、「えんぴつと消しゴム」だ。

私の場合、

えんぴつ:右利き
消しゴム:左利き

なので、書いてすぐ消すことができる!
マークシート試験にめっぽう強いのが
クロスドミナンスの特徴である。

そしてもうひとつが、「ナイフとフォーク」だ。

右利きの人は、当然、右手でフォークを使う。
でも「ナイフとフォーク」のセットになった瞬間、
右手はナイフに奪われ、フォークは左手になる。

だから右利きの中には、フォークだけを使うときに
わざわざ持ち替える人もいる。

これがクロスドミナンスだと、うまい具合に噛み合うのだ。
「ナイフとフォーク」は右利きだが、
「フォークだけ」になるとなぜか左利きになるので、
わざわざ持ち替えることなく、そのまま使えるのだ!

ステーキをとにかくスムーズに食べられるのが、
クロスドミナンスの強みである。

最後にもうひとつ、
クロスドミナンスがいちばん役に立つ場面がある。

それは、

「こういう場でコラムを書くネタになること」

である。
これ以上の利点は、生涯見つからないだろう。

*    *    *

みなさんは何利きでしょうか?

「エディンバラ利き手テスト」なるものが
ネットで受けられるので、
クロスドミナンス疑惑がある方は
ぜひやってみてください。

では、また明日。

 

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