リレーコラムについて

父の資質

井手康喬

父の仕事は、工場長でした。
実家がある佐賀県で、
かなり田舎にある工場です。

15年ほど前でしょうか、
僕が就職する頃になると当然、
僕がその工場を継がせるかどうか、
そういう話になるわけです。

僕も内心、
継いでくれと一度は言われるだろうなあ、
と覚悟はしていたものの、
広告代理店のクリエイティブ職に比べてしまうと、
やはり父のしている仕事は
「コツコツまじめで地方な仕事」
というものには見えてしまってたんです。

が、父は意外にも僕の気持ちを
わかってくれていて、
「継いでほしい気持ちがないわけじゃないけど、
 東京で広告代理店をやっているお前には、
 この仕事は地味だから向いてないと思う。
 だから、今の仕事を、のびのび自由にやりなさい」
ありがたいことに、そんなふうに言ってくれました。

結局、後継者には僕の姉の夫、
義兄が名乗りを上げてくれたので
問題はなかったのですが、

それにしても、
工場長と、コピーライター。
血のつながった親子で
全然ちがう仕事をしているなあ、
というのは何か残るものがあったんですね。

そんな思いとともに父と過ごすうち、
彼の中の「コピーライターの資質」に
気づくことがありまして。

まあ、ダジャレなんですけど。

その世代の男性には多いですよね、
ご多分に漏れず父はダジャレが好きで、
時折、これは!と感心することもあったので
メモしてました。
それを公開しようかと思います。

・家族で飲んでいると、
 ベロベロになりながら
「ウィスキーを、スコッチください…」
 と空のグラスを向けてくる

・姉が妊娠したとき。
 エコー写真に、又の間に小さな影、
 おちんちんらしきものが写っていた。
 男かも、と盛り上がる家族に
「タマタマじゃないの?」

・父が上京したとき、
 僕の友だち数人で父を囲んで飲んだ。
 とても楽しかったらしく、
 最後、お店の前で
「帰したくないけど…解散!」
 と高らかに宣言した

・紅白でEXILEが出場し
 ライジングサンという曲を歌うと
 酔った母が踊りだした。
 それを見て
「ライジングお母サン!」
 と手拍子をはじめた

・iPadを買ってあげた。
 しばらくいじったあと、
 うれしそうに
「森田で検索したら森田健作が出てきた」と
 画面を見せてくる

・いただきものの日本酒を
 家族で飲んでいた。
 なぜか瓶をじっと見つめ、
 悲しそうな顔をしたかと思うと
「一升瓶は、一生、瓶のまま…」

・祖母の告別式の最中、
 妹のカバンの金具が壊れた。
 喪に服した表情をキープしながらも
「しまった…閉まらない…」
 と耳元でつぶやいてくる

・「お手々のしわとしわを合わせて…
  しわ寄せ!」

・会社の同期たちと
 九州北部旅行をしたとき、
 みんなを実家に連れて行った。
 そのうちの一人との話の中で
「京大卒なのに、ひとりっこですか。へえ」
 伝わってなかったので二度言っていた

巨匠コピーライターの方々の
お目汚しになる可能性のある場所で、
こんなものを披露してしまい、
本当にすいません。

そんな父に先日、
自分の葬式のときには、
モーツァルトのピアノコンチェルト23番を流してくれ、
とリクエストされました。

この調子だとまだまだ先になりそうですが、
健康で愉快に長生きしてほしい、と心から願います。

というわけで一週間、ありがとうございました。
来週は、オープンハウスのCMで
同じく今年のTCC新人賞を獲った
吉兼啓介くんにバトンを渡しました。
博報堂の若き天才CM職人です。
どうぞお楽しみに。

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