リレーコラムについて

星に支配された先輩

大津裕基

初めて訪れる土地で飲食店を探すとき、たいてい食べログを利用する。スコアの高低はあまり気にせず、メニューや口コミの内容を重視して選ぶことが多い。多くの場合、満足のいく食事にありつける。これはすばらしいサービスである。世の中には私のように、口コミサービスから飲食店を探す人は多いだろう。

先日ともに海外出張へ赴いた先輩もそのひとりだ。先輩が使用しているのグーグルマップ。グーグルマップも地図上の各スポット(飲食店はもちろん観光名所など)に評価や口コミを書き込むことができ、評価の最高点は星5.0。これは食べログも一緒だ。

その出張はコーディネーター不在で、食事をとる場所も自分たちで探さなければならなかった。もちろん食べログは守備範囲外。私はネットの記事や旅行ブログをもとに、オススメの店を提案するのだが、先輩はてきとうに相槌を打つだけでずっとスマホをいじっている。そう、グーグルマップを見ているのだ。さすがインターネット界の巨人グーグル。守備範囲は世界まるごと。

出張のなかば、少し離れた場所までランチへ行くことになった。先輩によると、海外では星3.5を超えているといい店らしい。「大津くん、向こうに星3.8の日本料理屋がある」と言う先輩についていくと、「ちょっとまって、このピザ屋4.2だ。これは相当でしょ」と急に脇道へとそれてしまった。少しでも評価の高い店に行きたい気持ちは理解できる。しかしたどりついた星4.2のピザ屋は、お昼時というのに店内はがらんとしており、壁に掲げられたメニュー写真もあまり美味しそうではない。先輩も同感のようでまたスマホに目を落とし、「3.9のイタリアンか、3.7のシーフードか…」と次の店選びへと心を切り替えていた。

ゆうに1時間は歩き回ったであろう。空腹もとっくに限界をすぎ、「さっきの日本料理屋にしましょうよ」という言葉が口をつきかけたとき、先輩がその日一番の興奮した様子で声をあげた。
「うお!4.9!」
その高得点に私も疲れと空腹を忘れ、「まじですか!もうそこで決まりですね」と賛成した。

ふたりとも勢いを取り戻し、ずんずん店へと向かう道中、「ちなみに何料理の店ですか?」とたずねると、先輩は前を向いたままスマホを手渡してきた。グーグルマップには『☆4.9 タレント事務所』と書かれていた。タレント事務所。タレント事務所?

「いや、先輩これタレント事務所ですよ」
「4.9って相当高いよね!」
「でも、メシは出ないでしょう」
「わからないけど、4.9ってやばくない?すごいよここはきっと」

空腹のあまり頭まで混乱して、タレントデビューを目指す気になってしまったのか。そうこうしているうちに事務所のビルについてしまった。入り口で説得を試みるも、グーグルマップの星に支配された先輩は目を合わせようともせず、濡れた瞳でドアを見つめている。昔観た映画『ビルマの竪琴』のラストシーンを思い出した。ともに帰ろうと呼びかける戦友に、主人公は涙をつと流し僧の道へと歩み去る名シーンだ。先輩、坊主頭だし。いけない、一刻も早く食事をとらせなければ。出張業務もまだ途中だし、弊社は副業禁止である。

その後タレントデビューに未練を残したままの先輩を、なんとか地元料理のレストラン(星3.6)までひきずって食事にありついた。あのままビルの前でもめているところをスカウトし、喧嘩漫才の外国人コンビとしてデビューさせたなら星4.9もうなずけるものだ。

NO
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