リレーコラムについて

千の風になって

古屋彰一

ベテラン登山者と聞くと、

物静かで思慮深いイメージを思い浮かべる方が多いと思います。

きつい山を乗り越える時、人の精神も高みへたどり着く。

そう思われがちです。

 

しかし、現実は違います。

 

山を登る時、老人は、とにかくはしゃぎます。

グループになると、まるで中学生の修学旅行かと思うほど。

 

昨年の春

僕は、山の中でもっとも美しい時間の一つである日の出を山頂で待っていました。

山頂には、他に数名の若者と5人のお年寄りのグループ。

その日は、格別に美しくて

足元にひろがる雲海が、神々しい黄金色に輝いています。

その輝きが頂点に達し、

いよいよ太陽が顔が覗かせるまさにその時。

ピヨォォォ〜

背後から、謎の音が聞こえてきたのです。

振り返るとそこには、

お年寄りグループの一人が悦に入った顔でオカリナを咥えています。

表情から察するに彼女は、たぶん善意でBGMをつけようとしているようです。

 

しかも、この聞き覚えのあるメロディは・・

 

「私のお墓の前で泣かないでください〜」

 

その一節が流れるとともに

太陽が雲海から顔をのぞかせました。

 

「千の風〜に〜千の風になあって〜」

 

最高に美しい日の出を直前にして

パンパンに膨らんでいた若者たちの期待が

千の風になって山の向こうへ散り散りに飛んでいくのが

私には確かに見えました。

 

やがて曲が2番を迎える頃、

幸せそうな老人の様子に何もいえなくなった

若者たちの苦笑いを

すっかり顔を出した太陽が赤く染めていくのでした。

 

山は、人の精神を高めるのではなく、

自由にするだけなのかもしれません。

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