リレーコラムについて

児島令子さんは癖になる②

野原靖忠

児島さんは「イメージ」を大切にする。「美学」
といってもいい。

まだ若い頃の話だ。僕と後輩のウスイ君とで彼女
の事務所で打ち合わせをすることになった。場所
は大阪のほぼ真ん中、緑豊かな靭公園を見晴らす
新装開店の素敵な事務所。確か初夏直前だった。

彼女は開口一番「今日は天気がいいのでベランダ
で打ち合わせをしましょう」という。異論はない。
朝の爽やかな風が抜けている。広いベランダに白
いテーブルセット。児島さんは僕たちにカフェオ
レを出してくれた。

と、長い打ち合わせをしているうちに、僕とウス
イ君は異変に気づいた。ジリジリと体温が上がっ
ていく。太陽が高くなってきて暑くなってきたの
だ。暑いというより、熱い。ふと見ると、太陽の
角度の関係で児島さんの場所だけ、いい塩梅に翳
ってるじゃん。僕たちは直射日光だ。

我慢ならなくなって、僕は提案した。
「児島さん、そろそろ部屋の中で
 打ち合わせせえへん?」
「ダメよ」。ピシャリ。
「ちょっと暑いんやけど・・・」。
「ダメよ」。再びピシャリ。

そして彼女は語気を強めて言った。
「今日は、ベランダでカフェオレを飲みながら
打ち合わせをするのよ!」。

おそらく児島さんの頭の中には、爽やかな季節に、
セントラルパーク沿いの素敵なオフィスのテラス
で、小粋なジョークをはさみながらおしゃれに打
ち合わせをするニューヨーカー的というか(知ら
んけど)、秋山晶さん的というかのイメージがあ
って、それをゆずるわけにはいかなかったのだ。
たぶん。

爽やかな風、真新しいオフィス、公園、広いテラ
ス、テーブルセット、カフェオレ、広告代理店マ
ン2名、そしておしゃれなコピーライター児島令
子。イメージのセッティングは完璧だった。

彼女のイメージの唯一の誤算は、相手が低音で英
語で話すニューヨークのシュッとしたイケメンで
はなく、関西弁で文句を言うボサッと冴えない大
阪の若造ふたりだったことだろうか。
結局、僕たちがあまりにもブーブーうるさいので、
彼女はしぶしぶ打ち合わせ場所を室内に変更して
くれた。なんか納得いかない表情だった。

今日もまた児島さんの脳内イメージトルネードは
無辜の民を巻き込んで成長をつづけるのだ。

(つづく)

NO
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名前
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