ラブレター①
夏休みが終わっても登校する気にはならなかった。
今日も父の病室で寝泊まりしている。
午前七時半、高校から聞こえてくるチャイムに少し心を乱される。
父はもう長いこと寝たきりだ。
話すことも、目を開けることもないが、
手を握り耳元で声をかけると優しく握り返してくれる。
僕は毎日その日の日付と、その日の出来るだけ明るい話をしていた。
学校に行ってないことを隠すために、少しだけ嘘をついて。
「おはよう、今日は九月二日だよ。」
いつものように手を握り、耳元で話すと、
父は明らかにいつもより強い力で握り返してきた。
僕は嬉しくて、嬉しくて、
久しぶりにテンション高く母と二人の姉にそのことを話していると、
妙な機械音が鳴り響く。
心拍数が急激に下がり始めたのだ。
一気に騒がしくなる病室。
看護師や医師が父の周りを囲む。
できるだけ大きな声で呼んでくださいと医師に促され、
「お父さん」と耳元で何度も叫ぶ。
どれくらい経っただろうか、
僕たちはいつの間にか「お父さん、ありがとう」と伝えていた。