リレーコラムについて

わがリクルート事件!

名雪祐平

ある朝、テレビをつけた。
NHKニュース。ヘリの空撮。ガラス張りのビルの映像。ビル側面に、カモメマークと「リクルート」と見えた。

何が起こった?
転職したばかりなのに!

リクルート事件勃発。不動産会社リクルート・コスモスの未公開株が政官財界にバラ撒かれた事件。竹下首相はじめ、中曽根前首相、のちに首相になる宮沢、橋本、小渕、森など40名以上の国会議員や、日経新聞社長、NTT会長、官僚が未公開株を受け取っていた。竹下内閣は総辞職。竹下秘書は自殺。政官財の数名と、リクルート江副会長逮捕。

もし、リクルート事件が半年早かったら、ぼくはコピーライターになっていなかった。たぶん、リクルートに転職しなかっただろう。事件はロッテでこりごりだった。

実はだまされて、コピーライターになった。それがよかった。

「デザイナー募集」に応募し、リクルート人材センターに入社して初仕事の日。一枚のシートを渡された。募集要項専用に設計された、とらばーゆの原稿用紙。そのマス目に、求人企業の募集要項を書けと指示された。「高卒以上30歳まで。未経験者歓迎」。これ、デザイナーの仕事?

戸惑いつつ、任されてどんどんコピーを書いた。はまった。でも自分が向いているか、上達しているか全然わからない。社内の賞にポツポツ入賞するようになった。褒め上手な会社。乗せられてがんばった。賞の常連になった。もしかしたら向いている? 無我夢中。書くことがいちばん楽しかった時代。求人広告は成功・失敗が応募数や採用数でハッキリわかるのがよかった。実験、工夫、研究、挑戦。試せるだけ試行錯誤。TCC新人賞をもらった。

独学だったが、リクルートにヨシ子さんという名物部長がいて、普通なら会えない、凄い人たちを勉強会に呼んでくれた。はじめは鈴木康之さんだった。コピーの講評までしてもらって、うれしかったなあ。それから土屋耕一さん、秋山晶さん、小野田隆雄さん、仲畑貴志さん、眞木準さん、副田高行さん、佐々木宏さん、大貫卓也さん、佐藤雅彦さん。贅沢なスーパースターたち。打ち上げの食事会には、社員の何人かが参加できて、なぜかヨシ子さんはいつもぼくを呼んでくれた。刺激されまくった。才能に圧倒されて、自分がちっぽけにも感じた。

「名雪さんって、独立するタイプじゃないね」

昔、何気なく同僚に言われたことがある。当時のぼくもそう思った。自信の無さを、タイプという言葉でごまかしていたのかもしれない。でも、タイプかどうか、わかる必要ってあるんだろうか? わかったところで、やりたいことをやめられないだろう。

独立するか、しないか。はたして食えるのか?

前の会社で300万円だった年収は
リクルート10年目で、1500万円になっていた。5倍。

でもそんな成功より、人生は勇気のサイズ。
独立した。

サッカー・フランスワールドカップの
テレビ放送を全試合観られる、という
ド暇な日々が待っていた。

(次回は、わがカネボウ破綻!)

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