リレーコラムについて

【2023定点観測④】一世一代の告白。

和久田昌裕

「今朝、私の妻が読んで笑ってました」

午前中の作業を自宅で終えて出社すると、山田が早速報告してきた。奥さんがこれを読んでくれているとのことでおそらくはそんなに多くもない読者の生のリアクションは素直に嬉しい。しかし、実を言えば奥さんの和久田への第一印象は最悪だった。といっても会ったこともないのだが、

「何その人、って妻が怒ってます」

もはや何度目か分からない山田とスゴロクで飲んでいる時のこと。その頃の僕は「講演会が入ってきたから一緒に登壇しよう」だの「今度燻製合宿あるけどもちろん来るよね」だの「スペースデブリを除去する謎のプロジェクトあるけどまだ仕事なくて暇でしょ?一緒にやろ」と何かと理由をつけて孤独な中年男性特有のウザ絡みをしていた。まぁ、いつも遊んでいる後輩たちと同じことをしているだけなのだが、今までの後輩たちと決定的に違うのは、山田が至極真っ当な家庭人であることである。平日だけならまだしも、休日まで使ってのがっつり宿泊イベント、通称『燻製合宿』に誘う僕も悪いが、内容も聞かずに行きますと即答する山田も正気の沙汰じゃない。それで、奥さんが怒っている、と。至極真っ当な家庭人である山田の奥さんとしては至極真っ当な反応である。しかしある日突然雪解けは訪れた。

「何その人、って妻が笑ってます」

「10ポイント!」の翌日のことである。わくわくポイントという名の、実質和久田の遺産10万円をゲットした話を奥さんにしたらしい。すると途端に面白い!という評価に変わったとのこと。もちろんこれは、文字通り現金なものね、という話ではない。元々このわくわくポイントシステムは、和久田と遊んでくれる人を増やすための金銭的インセンティブと、もしこのまま独り身で死んじゃってお葬式に来てくれる人少なかったら嫌じゃない?→お金を配ろうというどうしようもなく寂しく浅ましい発想から生まれている。のだが、山田家の夫婦仲を取り持つのに一役買えたとしたら、それ以上に究極の不幸事である『死』を違う角度から捉え直すきっかけになるとしたら。そう大袈裟な死生観的なことを考えていたわけでもなく、何となくおもしれーじゃん程度の発想だけど、新NISAでオルカンぶち込んで目指せFIRE、なんてしょーもないことを考えるよりは、和久田と遊んで小銭稼いだ方が楽しいと思うので、皆さん今後とも遊んでください(懇願)。

ちなみに、一年前のコラムに登場した辻中兄弟は、兄てるてるが79ポイントとぶっちぎりのトップ。弟もっくんは31ポイントと、入社2目としては異常なスピードでポイントを荒稼ぎしている。どこの会社もそうだと思うが金のない若手であるもっくんは、あまりにも金欠すぎてこの前スゴロクで「わくわくポイントって前借りできないんすか?」と言ってきた。それをすると制度が破綻するのでできないと断ると「じゃあ、わくさん、いつ死ぬんすか?」と逆ギレ気味に聞いてきた。やっぱり最高だ。

その辻中兄弟の出身地、関西の電通からちょうど一年前に出向してきた男、野村一世(通称イッセー)も、わくわくポイント高取得者の一人で、一年で既に23ポイントを稼いでいる。イッセーは、関西クリエーティブのいろんな人からの申し送りで、とにかく「イケメンであること」以外の情報が全く伝わってこない、ルックスに全振りしたような男である。福岡に来るなりすぐに「僕はテルさんも、ヨネさんもできなかったことを絶対に果たして帰りますよ!」と宣言してくる。てるてるとよねやんにできなかったことって何?と問うと、和久田に彼女を作ることだという。実際にそうしてくれようとしたのだろう、早速いろんなところへ誘ってくれた。その裏によねやんの「とりあえず遊ぶときは、わくさん呼んどくといいよ、財布になるから」というアドバイスがあったことをすぐにバラしてしまうほど、イッセーは素直でルックス全振りの快男児なのだ。

福岡の誇る歓楽街・中洲にこじんまりとしたカジノバーがあり、そこに一人のバニーガールがいた。ショートカットに鼻ピ(鼻ピアス)がチャーミングで、ただただバニーの格好がしたいからという理由でカジノバーで働いているというちょっとアバンギャルドな女の子だ。そのアバンギャルドなところに惹かれたのか、よねやんのアドバイスを忠実に守っていたのか、ちょいちょいイッセーは僕をそのカジノバーに連れて行った。もちろんカジノと言っても健全で換金不可のチップを賭け合うだけのアミューズメントバーなのだが、僕にギャンブルの才能がないのは前回のコラムに書いた通りである。ましてや目の前にバニーガールなんてものがいては。毎回チップ代とお酒代を払い飲んだくれているうちに僕ら3人は仲良しになり、スゴロクから家飲みという定番コースができた。

明らかにそのバニーガール(もちろんその時はうさぎの格好はしていない)のことを好きなイッセーと、色々あって少し恋愛に臆病になっているうさぎちゃん。とてもお似合いなのに、一歩を踏み出すことを躊躇っている若い二人で剰え(あまつさえ)イッセーの方は「なんかわくさん見てるとずっと一人もいいかなと思います」とかふざけたことを言っている。バカを言うな望んでこうなったわけじゃない。

「もう付き合ったらいいじゃん、俺が見ててあげるからイッセー、告白せい」

酔った勢いとはいえとんでもないことを口走る僕に「分かりました!」と即答するイッセー。我が家のカウンターキッチンで、こうして始まった告白劇。さすがルックス全振りの男は違う(ちなみに僕は、歌の歌えない山﨑育三郎と呼んでいる)。二人のやり取りの詳細まではさすがに伏せるが、こうして目の前で素敵な若いカップルが爆誕。深夜3時に僕の家を後にする二人を見送り「人の告白見るの生まれて初めてだなそういえば」とか「和久田に彼女作るって話どうなった」とか、でも最終的には「この後すんごい盛り上がるんだろうな二人は」とかゲスいことを考えながら、キッチンの後片付けを始めたが、

「パーティの片付けが大変なのは、昨日の夜が楽しかった証なんだよ」

大豆田十和子と三人の元夫の大好きな台詞を思い出し、全部明日やろ!とベッドに入ったがイッセーの告白シーンが瞼の裏から離れず、寝付けなかった。二兎を追っちゃダメだなやっぱり。

 

 

というわけで金曜日、一気に書ききりたかったのですが、少し緊急の仕事が入ってきてしまったのと、目の前にいる弊社の内藤役員が「コラム毎日面白いけど、あの文量連日書いてて仕事してる?」と、痛いところを突かれてしまったので(てか堂々と会社で書いてるけども)毎回恒例のアディショナルタイムとして、明日もう一本だけ書いて次の方にバトンを渡したいと思います。名前だけ出てるよねやんの話と少しだけ告知をさせてください。それではまた明日。

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